100年後の老舗のために、今できることをやるという発想
食をコミュニケーションにする、クチコミの再発明、そして客と店の健全な関係性の模索。中村氏は飲食店経営者としてではなく、食そのものに、ひとりの人として関わっていると言える。最後に、活動の今後について聞いてみた。
「豚組は、50年、100年後に老舗と言われている店にしたいと思っているんです。またたく間に何百店舗も展開して10年で消える店でなく、1店舗だけれど100年続く、そんなお店にしたい。その時、僕はもう遺影になって店の片隅にいるけれど(笑)、100年後もお客様は相変わらず店のことをずっと愛してくれている。『miil』も、そういうお店をどんどん育ててけるようなサービスにしたい。小粒でもステキなお店がどんどん増えて、それらがずっと続く方が、店としても、お客様としても嬉しいはずですから。
それに、7坪の店からやってきて思うことは、個性豊かな店づくりをする経営者は食文化を豊かにする役割も担っていることです。気づいたら自分の周りにある飲食店が日本全国どこにでもあるファストフードまがいばかりだったら…すごく便利だけど、どこか寂しい気がすると思うんです。やはり世界で1つだけのお店がなければ、人は食べることに幸せを感じなくなってしまう。
今まではメディアでも何でも、お金が規模の経済として働く構造でした。つまり、お金をかければかけるほど、すごいものが作れるし、そこにお客様を呼び込むことができる。それゆえ、小さな個店には不利な状況だった。でも、
ソーシャルの時代ではそこが変わるんです。
大手も個店も、Twitterなら同じ140文字でいかにして面白い一言をかけるか?
という同じ条件です。
今まさに個店は、食文化をさらに豊かにできるチャンスに恵まれているんです。いろんな試みがもっと生まれていくといいなと思って、僕は本も書いて、『miil』などを通して発信を続けているんです」
どんなにお金をかけてもTwitterは140文字。実に大手も個店も、同じ土俵で商売ができる時代が到来している。これは飲食はもちろん様々な業種でも大企業の論理が大きく変わっていることを表象しているのだ。
今後は文化そのものも多様性の時代だ。どんなに小さな声だったしても誰かが聞いてくれる可能性があり、誰かがその小さな声を誰かが何よりも必要としている可能性があある。ソーシャルでは、そのような声が無数に交わされている。そして、企業はそれに応えていかなければならないのだ。