ブック・コーディネーター・内沼晋太郎さんに聞く『これからの本との付き合い方』  前編

ブック・コーディネーター・内沼晋太郎さんに聞く『これからの本との付き合い方』

06.May.2012

企画・構成

株式会社ロフトワーク
OpenCU編集部

現在、本という言葉が変わろうとしている。いや、一見したところでは何も変わっていないかに見えるが、まさに変化の真っ最中だと言える。その大きな要因に、紙ではない本の登場がある。電子書籍の存在だ。

電子書籍のビジネスはまだ本格的ではない。皆さんの多くは、この1ヶ月でApple iTunesで音楽は買っても、電子書籍は買っていないのではないだろうか? しかし、この記事をiPadなどのタブレット端末で読んでいる人は一定数いるだろう。つまり電子書籍は現在、“読む準備”が整っている段階にあるといえるだろう。

今回はそんな、電子とリアルの2つの意味を持つようになった“本”の今を、ブック・コーディネーターであるnumabooksの内沼晋太郎さんに近況と共に語ってもらった。電子書籍が紙の本にとって変わることが“進化”ではなく、むしろ電子書籍が生まれたことで、モノとしての紙の本の価値というのは、今どんどん高まっていると、内沼さんは言う。現在、本と人のコミュニケーションには何が起こり、求められているんだろう?

本物の本棚よりWeb上の本棚がリアルに感じる時代

ブック・コーディネーターである内沼さんからは、”電子書籍の現在、そしてこれから”はどう見えているのだろう?

まずは直近のお仕事の中を例に、内沼さんの考え方を聞いてみよう。

 

 

これは、TSUTAYA Onlineで展開された映画『モテキ』のキャンペーンコンテンツだ。その名も「幸世の部屋」。実際の映画に登場する主人公・幸世の部屋にある書籍を知ることができ、そのまま購入することもできる。同キャンペーンでは、リアルに再現された“幸世の部屋”も展示されたという。

「このコンテンツを制作しているとき、映画のスチールを自分で拡大して、全タイトルを目で読んでリストアップしていきました。その時、キャンペーンサイトのいちコンテンツだけど他にも応用できるな、と可能性を感じました。読書家の主人公が出てくる映画はたくさんあるし、本を通して自分の好きな映画の世界に浸りたいと思う人は多いはずだからです」

これはWebのコンテンツであり、架空の本棚。しかしこのサイトを通して本を購入すれば、架空の物語に登場する本棚を通して、現実の人とリアルの本が結びついたことになる。電子書籍時代の本棚の姿とも言うことができるのだ。

もちろん、店頭に本棚を設置して人と本を結ぶ方が話は早いかもしれない。しかし、書店が再現しようと思っても、それなりのコストと場所の制約が発生してしまうという。つまり、この「幸世の部屋」の本棚に関して言えば、Webサイト上の本棚が、“現実的”なのである。

 

リアルの本や本屋では電子書籍などの可能性を考え尽くした先に、リアルでしかできないことにフォーカスするべき

「電子書籍のコミュニケーションやコンテンツ制作は、業界、ユーザーともに未成熟な部分があります。例えば“Amazonには、現実の書店にあるような偶然の出会いがない”のはよく話されている。たしかに紙の本の場合はそうでした。しかし電子書籍の時代になった場合、もしこの“幸世の部屋”の全ての本が電子化されていたとして、本棚の前で立ち読みするような感覚で閲覧でき、さらに検索や関連する外部リンクも施されるとしたら、どうでしょう?

そこでは偶然の出会いがたくさん起こる、リアルの書店の本棚の体験そのものをデジタルの力で再現できただけでなく、電子書籍だからこその利点も備えることになる。商品情報・位置情報などとの連携や、いわゆるソーシャルリーディングといわれるソーシャルメディアと連携した読書体験など、よく言われているものにとどまらず、電子書籍の可能性は具体的に考えれば考えるほど広がっていきます。これからのリアルの本や本屋について考える場合は、そうした可能性を考え尽くした先に、それでもリアルでしかできないこと、できればリアルであったほうがよいと人々が感じるようなことに、フォーカスするべきです。」

もはや本は紙でできたものだけではないのだ。ブック・コーディネーターの仕事は、いまやバーチャルな本棚にも広がっていると言えるだろう。

内沼晋太郎

ブック・コーディネーター

1980年生まれインターネット育ち。一橋大学商学部商学科卒。国際見本市主催会社にて出版関連のイベントを担当後、2ヶ月で退社。フリーターとして千駄木・往来堂書店でスタッフなどをしながら、2003年、本と人との出会いを提供するブックユニット「book pick orchestra」を設立。2006年末まで代表をつとめ(現代表:川上洋平)、後に自身の「本とアイデア」のレーベル「numabooks」を設立し、現在に至る。
著書:『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版/2009)

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