クリエイターが自身をマネージメントする! 〜『クリエイターのための“やさしい”経営講座』の講師による事前座談会

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09.Oct.2012

OpenCU WrokShopのラインナップに、クリエイターに向けた、「事業の組み立て」から「組織の成長」までゼロからわかりやすく学べる、法律や会計の専門家がお送りする講座『クリエイターのための“やさしい”経営講座』が、2012年10月から加わります。“クリエイターだって経営者なんです”をテーマに、専門家がテーマごとに登壇し全6回の非常に実践的な内容を展開。その講義が目指しているビジョンを、運営メンバーに座談会で語ってもらいました。
INFO:https://www.opencu.com/workshop/
取材:OpenCU編集部 Text: 川俣綾加

 

今、フリーランスとして働くことの意味

本ワークショップは、主にクリエイター、アーティストを支援する専門家による非営利組織「Arts and Law」の有志メンバーが運営と講師を担当し、フリーの編集者として長年活動する米田智彦さんがモデレーターを担当する。両者のコラボのきっかけとなった、米田さんの感じているここ数年の「個人事業主」としての意識の変化について語ることから座談会はスタートした。

水野 米田さんはフリーでの活躍も7年目を迎えたそうですが、法人化しようと思ったことはありますか?

米田 いずれは、と思っていますよ。なんとなく、何から始めていいのかわからなくてそのまま……(笑)

山内 今までの活動の中で、法人化していなかったために、大企業との取引や大型案件の受注などで制約になったようなことはありますか?

米田 「やりにくいんだよね」と、チクッと言われたことはありますね。

水野 たしかに以前は、フリーの場合は大企業や国や県・市などの公共団体に相手にしてもらえないといったデメリットもありました。でも、最近は少し変化しているような気がします。
フリー編集者の米田智彦さん

米田智彦(フリー編集者、ディレクター)

 

米田 僕もここ2〜3年ですごく変化してきたな、と感じますね。

水野 個人でも法人でも、そんなに差を設けないというか。

米田 Facebookのようなソーシャルメディアの普及が1つの理由だと思います。これまで、大企業はフリーランスなんて「素性のわからない相手」という不安があったんでしょう。個人事業主の活動がソーシャルメディアによって可視化されてきました。

水野 確かに。それでも、やっている仕事が大きくなってくると法人化のメリットもあると思うので、状況に合わせて判断するのがベストですね。

 

活動実績が可視化できているかが重要

クリエイターが自分の活動を事業にしたい。そう思う背景はさまざまだが、実際にどこから1歩を踏み出せばいいのかわからないことだらけの人も多いはずだ。特に、「経営」という言葉から離れているクリエイティブ業ならなおさら。クリエイティブ業の場合、どのような“難しさ”がクリエイターに降り掛かってくるのだろうか。

公認会計士・税理士の山内真里さん

山内真理(公認会計士・税理士)

 

山内 ソーシャルメディアが普及してきた今でも、企業担当者がクリエイターに発注する際に、活動実績がわかる資料を求めてくることも多いのではないでしょうか。でも、ポートフォリオを提供するにも全ての案件をオモテに出せるわけではないですよね。

米田 「見せて」と言われても見せられない案件ってあります。機密保持契約書(NDA)を結んでいる案件や、進行中の案件。代わりに何を出すかとなると、それをやったと証明するものが存在しなくて、そのあたりが悩ましい。

藤森 事業化を目指しているクリエイターにとって、「今、何をしているか」や「過去実績」をわかりやすく説明できるように準備することは、とても大切。たまに自分のウェブサイトの過去の実績ページを全く更新しない人もいるみたいですが、まずはそういった身近にあるものを今から整理しておくのはオススメです。

水野 今からスリム化できるタスクはやっておいた方がいいですね。事業化したいと思った場合、考えなきゃいけないことって沢山ある。事業化に向けてお金・時間・労力を投入して、ようやく中身が固まってきたと思ったら、そのサービスは事業化できないってわかる場合もあるんですよ。だから、まずはこのポイントから立ち返ってみたりとか。

米田 ええ!? なんだかそれ、すごく怖いですね。

 

弁護士の水野佑さん

水野 祐(弁護士)

 

水野 サービスが法に触れる可能性があったり、許認可を得るのが難しかったり。そういった事前調査をしないままやみくもにお金や労力を費やしてしまい、結局そのサービスがダメになる……なんてことは度々ある話です。アートの場合でも、アーティストから「パロディに使っていいか」「ギャラリーで展示したいけど、大丈夫か」など事前に相談を受けることも多い。それは、あとから不可能だと露見するよりも事前に専門家に相談したほうが効率的だからなんです。

米田 クリエイティブに関する法律は、専門家じゃないとわからないことも多そうですね。そういう時、「この悩みはこの専門家」「あの相談はあの専門家」と知っておけたら理想的。

藤森 講座を通して専門家との付き合い方についても学んでいただいて、もっと身近に感じて欲しいです。専門家をうまく利用してアウトソーシングすれば、本来の自分の創作活動に注力できる。クリエイターの皆さんにとっても、それが理想的なのではと思いますね。

 

資金集めでは「なぜこの金額が必要か」を説明できること

事業化するにあたっての第一歩は、専門家を味方につけること。法律や会計については必要な専門知識が多く、全てをカバーするのは困難だ。

「あの時、知っていたらもっとスムーズにできたのに!」という事態を防ぐためにも、スタートアップの前に「自分は何がわからないか・知らないか」を明らかにすることが必要なのではないだろうか。

山内 よくあるのは、「個人ではなく会社にした方が税金が優遇されると思ったので、会社にしたい」という相談。法人化することはメリットばかりではなく、発生するコストや手間などデメリットもあるので、安易な考えは禁物です。税金の優遇についても、必ずしも全てのケースでメリットが出るわけではありません。

米田 お金の話は大事ですね。そういえば、融資や出資を受けるのって一体どうすればいいんだろう?

山内 創業するときは、政府系金融機関の融資制度や自治体の制度融資など、利用しやすい制度がいくつかあります。おそらく、ここでもネックになるのが「なぜこの資金が必要か」を、全く違う業界の人に説明することだと思います。まず、内容を理解してもらって、その上で「なぜこの金額か」を理解してもらう必要があるんです。

米田 あ〜、新しく始めるプロジェクトだと、説明するものが何も無かったりするんですよね。以前、電子書籍の媒体を立ち上げるというプロジェクトがあったのですが、資金を集めればいいのかというのは本当に難しかったです。まだ存在しない作品やサービスを、全く違う業界の相手に説明する……どうやって出資を募ればいいのか、あの時は途方にくれました。

山内 新しい事業を理解してもらって、資金を集めるのはとても大変。創業する時に準備しなければいけない自己資金や資本金についても、思わぬ落とし穴があると思います。こういったお金に関するテクニカルなことって、事業化を目指すクリエイターの皆さんも興味をもってもらえるはずです。

水野 事業計画、契約、決算、税金、与信、スタッフの雇用といった組織づくり……考えることが多すぎて自分の力だけで進めるとなると、「頭がパンクしそう!」っていう人も多いと思うんですよね。

山内 そうですね。難しい言葉も多いですし、何から始めればいいのか優先順位をつけるのが難しいかもしれない。でも、押さえるべきポイントはシンプルなことも多いです。そこは私たちが不安を解消するお手伝いができればと思います。クリエイターの皆さんが事業化・組織化する時には色々な状況があると思うので、それぞれのケースの参考になるよう一緒に考えていきたいです。

弁護士の藤森純さん
藤森 純(弁護士)

 

藤森 僕らだけだと、僕ら視点になってしまう。実際に皆さんが今どんな風に働いていて、この先どんな事業を立てることを考えているか、お話を伺いたいです! この講座に参加するクリエイターの皆さんには、カフェでお茶するみたいな気持ちでリラックスして講座に来て欲しいですね。

米田 フリーランス7年目ですが、僕もまだ何もわからないと言っていい状況なので、みなさんと一緒に勉強していけたらいいなと思います。

山内 この講座はクリエイターの皆さんに向けた、事業化や経営についての講座です。単なる一方向のレクチャーではなく、私たちも一緒に学びながら皆さんのお役に立てれば嬉しいです!

今までの活動を事業としてスタートすれば、フリーランスだったクリエイターもりっぱな“経営者”となる。
ソーシャルメディアの台頭によって個人が活躍できる時代だからこそ、法律的・会計的な知識や、経営の実践的なやりくりについて、改めて学ぶ必要があるのかもしれない。
クリエイターならではの事情をふまえた経営やお金の話。この機会に本ワークショップで学んでみれば、心強い武器となってクリエイターを支えてくれるはずだ。

 

【座談会のメンバー紹介】

米田 智彦
2006年よりフリーランスとして活動中の現代編集者(出版プロデューサー、コンテンツディレクター、ソーシャルメディアディレクター、文筆家)、米田智彦編集事務所代表。近年はノマドワーカーとして個人の新しい働き方の可能性を追求し、取材や情報発信を行っており、本講座の開設も個人クリエイターを応援したいという思いから実現に至る。サイト:NOMAD Tokyo(ノマド・トーキョー)

山内真理(公認会計士・税理士)
クリエイター・アーティスト等を支援するNPO「Arts and Law」理事。大手監査法人にて法定監査・株式公開支援に従事したのち独立。独立後は中小企業、ベンチャーの会計税務・ファイナンス、経営支援の他、個人クリエイター・アーティストの税務相談や組織化・事業基盤強化のサポート、アートプロジェクトの会計サポート等も行う。

水野 祐(弁護士)
クリエイター・アーティスト等を支援するNPO「Arts and Law」理事。「Creative Common Japan」、「FabLab Japan」、「LiFETONES」等にも所属。企業法務全般に従事しつつ、アート・エンタテインメントに関する法務を専門としている。執筆協力:『クリエイターの渡世術 20 組が語るやりたいの叶え方』(ワークスコーポレーション)、連載:『写真とLaw』(betweenthebooks)、『カルチュラル・ランドスケープ・アーキテクチャ・バイ・ロー』(HITSPAPER)。

藤森 純(弁護士)
民事訴訟案件(不動産関係、債権回収等)、企業法務、エンターテインメントに関する法務アドバイス等を中心に活動中。ライフワークにしたいのは、上の世代が築いた文化や財産を次世代が受け継ぐために、その橋渡しを法律家としてお手伝いすること。

 

ワークショップ開催のご案内

クリエイターのためのやさしい“経営講座”

クリエイターのための経営講座

 

日々の活動を通し、起業したクリエイターからよく聞くのが、“会計・税務・法務などの経営のための実践的な知識を学ぶ機会が少ない”という声です。個人事業主や会社経営者として活動しているフリーのクリエイターは、自ら事業の舵取りをするうえで、特にマネジメントスキルが重要になってきます。本講座は、そんな孤立しがちなクリエイターが、経営力やマネジメントに不可欠な知識・スキルを会計から法務に至るまで横断的に学べるよう少人数制・体験型の連続講座として設計してみました。

  • 2012年10月〜2013年1月開催
  • 「事業の組み立て」から「組織の成長」までゼロからわかりやすく学べる、法律や会計の専門家がお送りするクリエイターが真に自立するための実践的講座
  • 開講スケジュール
    ①10月24日(水)  ②11月14日(水)  ③11月28日(水) ④12月12日(水)⑤1月9日(水)⑥1月30日(水)各回20時~22時(終了後懇親会あり。23時まで)
  • 開催地:Loftwork Lab (渋谷区道玄坂 1-22-7 道玄坂ピア10F)
  • 受講料:連続受講 30,000円 (全6回)、単回受講6,500円
  • 募集人数:最大30名
  • 申し込み方法以下の「ワークショップ申し込み」からメンバー登録上で、講座のチケットを「チケット購入」ボタンから申し込みください(Tixeeサイトに移動します)
  • 担当講師:山内真理(公認会計士・税理士)水野祐(弁護士)藤森純(弁護士)他 全てArts and Law所属
  • プロデュース・モデレーター:米田智彦氏(フリー編集者)
  • 詳しくは、ワークショップトップページ「クリエイターのための“やさしい”経営講座」の「Learn More」からご確認ください。

※無料メーリングリスト登録

◎講座への申し込み

各回20:00~22:00(終了後懇親会あり。23時まで)
受講料
:6,500円(単回)

※第1回受講者の全6回連続受講は第2回のチケット購入ページ(Tixee)より24,000円のチケットを購入ください
※支払いは、クレジットカード、または、開催3日前までは振込みでも受け付けます
※クレジットカード/振込み以外で現金でのお支払いを希望される方は当日、受付にて精算させていただきます。 

❏募集中の講座

◎第1回 10/24(水) 「クリエイターの経営全般」 ※終了しました。
◎第2回 11/14(水) 「事業の準備をする/組織化する」
申し込みボタン

◎第3回 11/28(水) 「資金を管理する/資金を調達する」
申し込みボタン 

第4回 12/12(水) 「契約を結ぶ/決算書を読む」
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第5回 1/9(水) 「著作権について/商標登録しよう」
申し込みボタン 

 ◎第6回 1/30(水) 「雇用する/会社の経理と税金について」
申し込みボタン 

 

Arts and Law

クリエイター、アーティスト等を支援する法律家NPO。2004年より、美術、工芸、映像、音楽、出版、建築、デザイン、ファッション、パフォーミングアーツ、メディア芸術、アートプロジェクトなど、あらゆる文化活動に携わる人々を対象とした非営利の専門アドバイスを提供し、実践的で中立的な情報を芸術・文化活動を行う人々とシェアしている。 スタッフは弁護士を中心に、コーディネーター、コンサルタント、研究者などがプロボノ(専門家によるボランティアの公益社会活動)として運営をおこなっている。

Arts and Lawhttp://www.arts-law.org/home

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米田智彦

編集者、コンテンツディレクター、ライター

編集者、コンテンツディレクター、ライター。1973年福岡生まれ。出版、広告、Webなどで企画・編集・執筆を行う。2005年より「東京発、未来を面白くする100人」をコンセプトにしたインタビューWebマガジン「TOKYO SOURCE」を立ち上げ、気鋭のクリエイターやアーティストなどへの取材を続けている。共著に『これからを面白くしそうな31人に会いに行った。』
2010年からはUSTREAM関連の書籍の企画をいち早く手がけ、『USTREAM 世界を変えるネット生中継』(編集。川井拓也著、ソフトバンククリエイティブ刊)、『USTREAMそらの的マニュアル』(企画・ディレクション。インフォレスト刊)を出版。近年はノマドワーカーとして個人の新しい働き方の可能性を追求し、取材や情報発信を行っており、今講座の開設も個人クリエイターを応援したいという思いから実現に至る。NOMAD TOKYO http://nomadtokyo.com

・ツイッター:@Tomohiko_Yoneda

・個人ブログ:http://blogs.brash.jp/tomohiko_yoneda/
・Facebook:http://www.facebook.com/tomoiko

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