あの「セカイカメラ」でARの未来を世界に提示した井口尊仁さんが、テレパシー株式会社CEOとして、再び世界に放つ新しい未来のウェアラブル・デバイス「Telephy One」。
世界中から一番ホットなテクノロジーやアイデアが集結するSXSW2013に初披露され、先日ロフトワークで日本初公開されました。しかも今回は、「Telepathyのある未来の日常を描くこと」を趣旨としたアイデア+ハッカソン=アイデアソンのイベントとして緊急開催。Telephy Oneそのものはもちろん、実現する未来像のアイデアソンの結果をレポートでお届けします。
text:森オウジ
テレパシーで繋がる未来を作るデバイスTelepathy One
技術オリエンテッドな製品ではなくこれまで実現できなかったような新しい日常体験そのものを創造することに主眼をおいたデバイスであるTelepathy One。一部ではGoogle Glassの対抗馬とも言われ、なんとGoogleにも「Critical Competitor」、つまり良きライバルとして認められているといいます。
そもそもTelepathy Oneとは何なのか?イベントの冒頭で井口さんからTelepathy Oneの紹介がありました。
「Telepathy Oneは、Google Glassの対抗馬とも言われていますが、僕は全く異なるウェアラブルデバイスだと思っています。見た目は似ているかもしれませんが、そもそも実現する未来像が異なるわけです。
まず、Google Glassは非常に優れたデバイスです。目へのプロジェクションにはプリズムを採用し、おそらくAndroidの亜種と思われるOSを内蔵。iPhoneやAndroidとコミュニケーションするデバイスです。ボイスコントロールでビデオをレコーディングしたりインターネットのサービスを自在に利用できることが注目されています。
Telepathy Oneはマイクロプロジェクションユニットを搭載し、眼前にバーチャルなコンピュータディスプレイをポップアップさせます。そしてインターネット、クラウドとコネクトし、情報を送受信します。高性能なマイクロカメラを内蔵し、たとえばかわいい犬を見つけたら、自分の友人や恋人に、見た瞬間に送ることができます。
ここまではGoogle Glassと近い特徴を持っていますが、Telepathy Oneは、ソーシャルな体験共有型のコミュニケーションを実現することに力点を置いたデバイスです。つまり、人間の感動・感覚・思考が、音声あるいはテキストで瞬時に他者と共感・共有できる、そんな未来を作るためのデバイスなのです。
このデバイスが変える未来像はいかなるものか?まず現在はiPhoneを使ってFacebookメッセンジャーで写真を送ってみると、13ステップ近くかかります。それはポケットから出す、ロック解除といったステップがどうしても外せないためです。その間に世界でシャッターチャンスを逃している人は、何十万人もいることでしょう。
Telepathy Oneはウェアラブルであることから、そうした今まで不可避であったステップを省略し、限りなくゼロステップに近づけることを目的としています。そうすることで、“今思ったこと、見たことを、今すぐに”共有できる瞬間的にお互いが繋がれることができるコミュニケーションを生み出すことができるのです。
まさに“テレパシー”で互いが繋がり合えるような世界を作って、未来をより楽しく、より愉快なものにしたいと考えています。
とはいえ、いかに優れていたとしても、デバイスだけではそれは実現できません。テクノロジーは使う人の生活全般に素晴らしさを加えることによって、その真価を発揮するもの。大切なのは、“いかに使うか”“どんな世界を作るか”というアイデアです」
テレパシーで繋がる日常とはどういうものか、そのアイデアの数だけ、Telepathy Oneの可能性は広がりそうです。
溢れるアイデアは、可能性の証
イントロダクションに続き、ロフトワークの棚橋がモデレーションを行う、アイデアソンがスタート。今回使われた手法は「ワールドカフェ」。
- 参加者はグループに分かれ、それぞれにアイデアを出し合う
- グループ内のひとりを残し、他は別グループへ移動・シャッフルします。ここで再度アイデアを出し合う
- 1)と2)を2回繰り返し、再び最初のテーブルに戻って、その間の移動・シャッフルされたグループで出たアイデアをシェア
- それぞれが紙に自分のアイデアを書き出し30秒プレゼン
- 壁に貼り出されたアイデアに投票。投票数の多いアイデアを投票者が集まり最終案を完成
- 最後はグループでアイデアをランスルーして発表
90分近いワークが終了。会場が笑いに溢れる様々なアイデアが出てきました。ここでは、その一部をご紹介します。
『公共空間でテレパシー』
電車などの公共空間で、Telepathy Oneを使い、知らない人同志でゆるやかな合意形成を促す。これによって、人から見た自分など、いろんな視点を瞬間的に獲得することができ、人のゆるやかな繋がりをもたらし、東京の殺伐とした空間をやわらげる。
『タクシーの相乗りテレパシー』
最終電車の後、タクシーの列に並ぶのは億劫なもの。相乗りできれば運賃も安く済み、列も早く解消するが、なかなか言い出せないもの。そこでTelepathy Oneで、行列の中の見知らぬ人同志で合意形成し、相乗りを実現する。
『入社式を前にテレパシー』
Telepathy Oneをつけ、「僕今日入社式なんです」ということを周りに知らせれば、「がんばってね」「ネクタイ曲がってるよ」など、周囲の社会人からサジェストがもらえる。これから社会人になる人を、温かく受け入れる社会を生み出す。
最後はこれらのアイデアに投票し、票を入れた人同士で「ボディーストーミング」つまり、劇としてこのアイデアを表現し合います。コントあり、感動ありの、まさに大人の学芸会さながらの盛り上がりでした。
オープンな「場」が、Telepathy Oneの未来を生み出す
最後に井口さんから再び、今回のイベントを振り返り、Telepathy Oneのこれからを語りました。
「今日は本当に素敵な場が生まれ、楽しいアイデアもたくさんいただけたので、素晴らしい時間でした。
これからのTelepathy Oneには、こうした場がどんどん生まれることが大切です。Telepathy Oneを知った人が、自分のアイデアで使い方をつくっていく、ことが重要なのです。
ビジネスじみたトップダウンのイノベーションには広がりに限界があります。その一方で、ボトムアップで使う人が増え、使い方が生まれていくことには、無限の広がりがあります。この広がりが、生活様式や人間の行動パターンを社会的に変える潜在能力を持つ、ウェアラブルデバイスの普及には欠かせないことです。それゆえ、トップダウンでコントロールすることは、そもそも好ましくないのです。
Telepathy Oneを持って世界を回るとよく分かりますが、たとえば同じアメリカでも、ニューヨークとサンフランシスコでは生活様式がまるで違う。地下鉄社会であるニューヨークに対して、サンフランシスコは車がないと生活が成り立ちません。それゆえ、Googleの自動運転なども生まれるわけです。
この地球には、その土地で育まれてきたいろんな価値観、生活スタイルがあります。その上での、オープンエンドなビジネス、ハック、そしてユニークなユーザエクスペリエンスがTelepathy Oneから生まれていくことを期待しています。
今回、私たちが目の当たりにしているTelepathy One、そしてウェアラブルデバイスはまだ遠い未来のように思えますが、世界は変わる時は一瞬で変わります。そして変わった後は、変わる前の世界を想像できなくなります。今僕たちがTelepathy Oneで変わる未来を、想像することしかできないように。
想像しかできないことを創造する。それがイノベーションの一つの側面でしょう。Telepathy Oneが目指すのは、その想像と創造のプロセスに、ユーザーと、そして社会といっしょになって、楽しんでいくポジティブな未来像です。
このイノベーションの主役は誰よりも、あなた、そしてあなたのアイデアこそがTelepathy Oneの未来をつくります」
井口さんの言葉から、Telepathyは、さまざまな環境や状況により、“ハックされる”製品だと感じます。今年の秋にはGoogle Glassも発売となり、現実となるウェアラブルデバイスの世界。今回のアイデアソンは、製品とユーザーの関係を意識する体験を感じた夜となった。
❏イベント概要
opencu.com/events/opencu-idea-hackathon- telepathy-one
日 時:2013年4月4日 19:00-21:30 [op 18:45]
場 所:loftwork Lab (渋谷区道玄坂1-22-7 10F)
定 員:先着30名
プログラム:
1)What’s telepathy one? by 井口尊仁(telepathy)
2)ワークショップ“Telepathyのある未来の日常を描くこと”
モデレーター:棚橋弘季(株式会社ロフトワーク)
3)チーム発表