足もとの宝をデザインする 〜NOSIGNER太刀川英輔、島根県美郷町〜 ワークショップレポート

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26.Oct.2013

2013年10月11日 loftwork 烏丸にて、地域の課題について考える「足もとの宝をデザインする 〜NOSIGNER太刀川英輔、島根県美郷町〜」を開催しました。当日になってゲストのひとりである太刀川さんが急病のために参加できないという残念なトラブルがありましたが、もう一人のゲストである地域おこし協力隊・小川珠奈さんが活躍する島根県美郷町のケースを元にしたワークショップが繰り広げられました。(レポート:loftwork 斉藤美帆)

 

足もとの宝をデザインする

今、日本の各地域でワクワクするような住民参加型プロジェクトが生まれています。 そこには、その土地の文化、自然、産業の価値をもう一度見つめ直し、 世代や立場を超えた多様な人たちが一緒にがんばろう!というエネルギーが感じられます。

各地で地域に住む人たちと「Co-Creation(共創)」しながらそこに眠る価値を見つけ、 5年後、10年後、50年後といった時間軸で住む人が持続的にPDCAを回していける仕組みをデザインする。 そんな素敵なプロジェクトを生み出すゲストをお招きし、 多様な人たちとどう対話し、どう共感を得て、どうアイデアをカタチにしていくのか、 「Co-Creation(共創)」のポイントをゲストに伺い、実際の地域の課題をケースに参加者全員で考えようという今回のイベントでしたが・・・

ゲストのひとりNOSIGNER 太刀川さんが病気のため急遽不参加に。太刀川さんのお話を楽しみにしていた皆さん、大変申し訳ございませんでした。

 

島根県美郷町でいま、起こっていること

気を取り直してイベント開始。まず最初に、島根県美郷町の地域おこし協力隊・小川珠奈さんが、美郷町の現状と課題について現地の写真とともに共有してくれました。

小川さんは島根県中央部にある島根県美郷町の比之宮という地域に地域おこし協力隊として派遣されました。人口282人、高齢化率52%、世帯数132の田んぼと山に囲まれた自然豊かな地域です。

この写真を見ると一見、テレビなどで目にする静かで穏やかな村という印象をうけるかもしれませんが、この地域に住む人たちはとってもパワフル!小川さんは地域住民の特徴を次の4つにまとめて、説明してくれました。

特徴1:創ることがとにかくすき!


「食べるのが大好きでなんでも自分たちで作ってしまうんです!」

 

特徴2:大人遊びが半端ナイ


「園芸や鮎とりなどの趣味でやることのレベルが高い!」

 

特徴3:70歳は「若手」


「70歳を越えても”お兄さん” と呼ばれて活躍している”若手”がたくさんいます!」

 

特徴4:何でも「みんなで」やる文化


「お祭りや町の共用スペースの修繕など、なんでもお年寄りが集まり、全て自分たちで解決してしまうんです!」
(写真は住民総出で竪穴式住居を作った時のもの)

そんな美郷町に地域おこし協力隊として派遣された小川さんは移住後すぐに積極的に活動を開始しました。しかし、アンケート用紙を配れば、「直接話を聞いて回れ!」と怒られ、提案書を持って行っても読んでもらえず、移住当初は住民の方々とうまく連携がとれなっかったようです。
粘り強く相手の文化にあわせて、住民個人個人・行事や集会一つ一つの場になじんでいくよう工夫した結果、次第に住民の中から様々な変化が起こり、課題が解決されていったといいます。

この住民の変化から解決までの流れについて小川さんは「巻き込まれる」「巻き込む」「巻き起こる」という言葉を使い、以下のように説明しました。

1、巻き込まれる:自分自身が積極的に地域のコミュニティやイベントに巻き込まれる。

2、巻き込む:巻き込んでくれた住民に対して、自分の想いや提案を日常の会話の中でさりげなく伝え、巻き込む。

3、巻き起こる:住民は自ら積極的に動きだし、いつの間にか小川さんが思ってもみなかった変化が巻き起こる。

小川さんのアイディアを住民の皆さんが吸収し、一緒に形にしていった結果、たくさんの地域おこし活動が実現しました。どれものどかな田舎町にはなかなかないものです。まさに小川さんは地域に住む人たちとの「Co-Creation(共創)」に成功したといえるでしょう。いくつかをご紹介します。

 

「地域密着型のラジオ番組”みさとーく”」

 

「夜のたまり場”とまり木”」

「都会でのフラッシュモブでPR」


◆朝日新聞デジタル:通行人が一斉ダンス? 広島の街なかでフラッシュモブ – 社会

 

「クラウンファンディングに挑戦」


◆幻の果物<<ポポー>>をみんなに食べてもらいたい! – FAAVO 島根

 

地域の若い人たちが積極的に関わるには?アイデアソンがスタート!

大人たちの間では地域おこしを巻き起こすことに成功した美郷町ですが、その一方で若者(美郷町の場合40代以下、約40名)の参加が少ないことが現在の課題です。若者が地域のイベントに参加するのは、年に一度の伝統的な神楽祭りくらい。なかなか地域おこしの活動へは足が向かないようです。

という目下の悩みが明らかになったところで、小川さんからのお話は一旦おしまい、ここで本イベントのワークショップのお題が発表となりました。テーマは、“美郷町に住む若い人たちが積極的に地域に関わるようになるまでのストーリーをデザインする”。A・B・C、3つのチームに分かれた参加者は自己紹介を終えて早速課題に取り組みます。そのアイディア出しの手順は以下の通り。

 

1、現状の課題を考える

共感マップというツールを使い、美郷町の若者の日常の体験や気持ち・考えを理解します。チーム全員でディスカッションしながら、若者たちの日常を自分ごととして考えます。


 

2、課題解決のためのアイディア出し、共有、集約

若者たちの日常・気持ちを理解した後は、個人個人でアイディアを書き出していきます。書き出したあとはチーム内でアイディアを共有。合体させたり、発展させたり、よりよい解決に向けてブラッシュアップしていきます。

 

3、ストーリーボードで表現する

発表はストーリーボードという形式で行います。このために用意された大きなポストイットに1つのアイディアをストーリー(紙芝居)形式でまとめてきます。


どのチームも熱心で制限時間を過ぎても、会場はヒートアップしたまま。「時間ですよ〜」という司会者の声にしぶしぶペンを置く参加者のみなさんでした。そしていよいよ、各チームのアイディアの発表の時間です。

 

チーム発表〜講評!キーワードは「サステナビリティ」

Aチーム:若者が集まる数少ない行事「神楽祭り」を若者主役のダンス大会に!

ただ参加するだけのお祭りに、競い合う「大会」という要素を加えて若者の参加を促すことを考えました。

 

Bチーム:外部の目で地域のよさを再発見!他の地域との交換留学

他の都市や町の若者と交換留学(ホームステイ)を行い、それぞれの地域の良さを外部視点でシェアすることで、普段あまり気づかない地域の良さを再発見しようというアイディアです。

 

Cチーム:若者が集まる場・イベントに地域外の観光客を巻き込む

そもそも美郷町は既にイベントで溢れている。既存のイベントの中で若者が集まる場(例えば神楽祭りの練習場など)に観光客を呼んで、一緒に参加してもらい、地域を盛り上げようと考えました。


そしてついに優秀賞チームの発表が決まります。和気あいあいとしていた会場が一瞬少し緊張した雰囲気に。
小川さんはメモをとったノートを見ながら、「どれもいいアイディアで悩んだんですけど・・・」

 

「優秀賞は、Cチームです!」


Cチームのみなさんには、美郷町で採れたエコ米(島根県が認定した減農薬米)が贈呈されました。

評価の決め手はCチームのアイデアが「既にあるものをそのまま活かすことで、住民の負荷にならずモチベーション高く参加できる仕組み」であったこと。元より様々なイベントを日々実施している住民のみなさん。イベントを増やすという発想ではなく、地域に既にある行事に外部から参加者を募るという発想がAチーム、Bチームとの違いになりました。

小川さん「イベントを新しくたてるということは誰かが必ず運営やしきりをする必要が出てきてしまいます。Cチームの案は地域住民に負荷なく、モチベーションを持たせて積極参加してもらえると考えました。」

どれだけリアルに、内部からその場の人・環境・モノに寄り添い・見つめ直しながら考えることができるか。特に、持続可能であるかどうか(サステナビリティ)は、地域外の人が見落としてしまいがちな要素です。小川さんの講評コメントからも、住民と「Co-Creation(共創)」をするための大事なヒントを見つけることができました。

 

ワークショップ終了後はささやかな懇親会を行いました。

ここでNOSIGNERの太刀川さんが急遽オンライン中継で登場!不参加をお詫びしていただくとともに元気な姿を見せて私たちを安心させてくれました。太刀川さん、次の機会こそはよろしくお願いしますね!

会場の参加者は、美郷町で収穫された幻の果物ポポーを食べながら、時間ギリギリまで今回のワークショップについての様々な意見や情報を交換してワークショップは終了しました。平日の日中にもかかわらずご参加いただいたみなさん、ありがとうございました!


 

編集後記
地域というと名所・名物・名産品がある「場所である」という認識に陥りがちですが、そのそれを作り上げる「環境」や「歴史」、そして「それを受け継ぎながらまた自分や地域の暮らしを作っている住民の皆さん」が「地域」であること。今回のワークショップではそんな当たり前のことに気付くことができました。私は普段は東京で生活をして働いているのですが、この島根県美郷町のことを考えるワークショップを企画・体験したことで「地域」というものの考え方・捉え方が少し変わったように思います。
今回の「足もとの宝をデザインする」ワークショップは続編も予定されています。東京や別の都市のみなさんも、日本でも世界でも特色のある「地域」京都に旅行・出張がてらお越しいただき、ぜひ日本各地の「地域」について考えてみませんか?
(このワークショップでは小川さんのお話をグラフィックファシリテーションで記録しました!)

 
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