先日、2014年3月7日、ロフトワーク烏丸オフィスにて「UPDATE京都 #1 Guest:だるま商店 トーク&みんなでライブペインティング」を開催しました。
歴史と伝統が息づく街、京都。しかしその実、日本一大学の多い学生街でもあります。そこでは数百年来の伝統技術と若いアート集団の距離感が近く、絡み合いながら育つ面白い土壌でもあるのです。
その面白さを掘り起こす試みが「UPDATE京都」。
今回はその第一弾として、デジタルの作画という手法を使いながら、歴史ある仏閣に障壁画としても採用されているだるま商店さんをお招きし、アーティストしての活動方法などをお聞きし、後半は希望者参加のライブペイントを行いました。
■二人で創る「だるま商店」というアーティストのカタチ
小雪ちらつく厳しい寒さの中、参加者の前に登場したのは和服を颯爽と着こなしただるま商店、島さんと安西さんのお二方。
作画担当の安西さんと、渉外担当の島さん。二人で形作るアートユニット「だるま商店」。
その活動は多岐にわたり、京都に住んでいると本当にいろいろな場所で出くわします。
特にユニットという珍しい形態なだけに、どういう意思疎通を行っているのか、どうやって仕事をとってきて実際はどういう風に作成しているのかが気になります。弊社川上がナビゲーターとなり、だるま商店さんの秘密に迫りました。
▲会場が聞き入る中、作品の画像を出しつつ説明をしてくださるだるま商店のお二人。着物から障壁画、パッケージデザインからラッピング電車まで、その活動はとても幅広いです
■どうやって仕事をとり、どうやって描くか。
我々ディレクターも覚えがあるのですが、どんな案件であれ、クリエイターさんが興じて創ってくれるもの、それが結果として一番いい作品に仕上がります。
そこで不思議なのは、島さんはどうやって安西さんをその気にさせる仕事をとってこれるのか。受注時の意思疎通をどうやって行っているのかが疑問でした。
「普段から何を描きたいかはしっかり話をしてて、100や200は軽くストックがありますから」と島さん。その中に落とし込んで描きたい案件に持って行くのは割と簡単とのこと。
「島さん、結構無茶振りしてくるんですけど」と安西さんは笑います。「絵描きを名乗ってるからには、できん、とは言えないだろと思って頑張ります。たぶん僕の所に話に来る前に、もっと無茶な話を色々調整してるんでしょうし」とも。なるほどこれは強固な信頼関係です。
▲「初めてのライブペインティングはベトナム。ある日島さんが『絵ぇ描けるやろ? パスポートとってきて』と。 気づいたらベトナムでした」と安西さん。島さんすごい
■減点法の風土に対抗する「本物へのこだわり」
京都は「新しいもの」に対して非常に厳しい目を持つ土地でもあります。
「東京の加点方式に反し、京都は減点方式です」と島さん。「アレがあかん、マイナス5点。これもあかん、マイナス5点と引いていって20点くらい引かれたらもう、あれはあかん、と判断されます」。作り上げていく文化と、そぎ落として行く文化、と言い換えられるかもしれません。
だるま商店の作品はコンピューターグラフィック。この新規の手法が京都でどうやって受け入れられたか。
「厳しい人が見ても面白がってもらえるようなこだわりを入れてるからでしょうか」と島さん。
例えば着付けを学ぶ事によって構造や質感がわかり、絵に真実味がでる。着物の柄や小物など、季節感をさりげなく盛り込む事も。
そのこだわりはすさまじく、とある寺院の障壁画を描くまで調査に費やした時間は1年。ネットで調べ、図書館や学会に足を運び、当時の実際の場所に立ち、距離感や大きさ、そこから見える山の形などを取り込むのだといいます。
「通りを歩いてても、これが平安時代だったらあそこにアレがあってコレがあって、と脳裏に浮かびます。そういうスイッチが入るみたいで」と安西さん。
当時の顔料を可能な限り調べ、色調整に反映させるという作業も。
絵描きの脳裏に鮮やかに浮かんだ「当時のリアル」を描き出していく。膨大な調査によって裏付けられた描画に説得力がでるのもうなずけます。「仕事として請けるからにはそのくらいやらないと」と島さんはケロッと仰ってました。さすがです。
なんとその時奉納した障壁画は、最初の打ち合わせの後一度もチェックが入らず、現物を納品しにいった二人に対して、ご住職は「でかした!」と一言だったといいます。だるま商店への信頼もさることながら、京都の寺院の懐の広さもなかなかのものですね。
■「だるま商店」の「描きたいもの」
昨年12月に出版された画集『極彩色絵巻』の帯には「わびも、さびも、スキマもない。『極彩色』で描く原風景の傑作集」とあります。確かに、だるま商店のイラストの殆どはとても色鮮やかなものばかり。
総じては描きたいものは何かという問いに「その場の空気感を」と安西さん。
例えば雪が降り積もった場面には、冬の透徹とした空気を。女性を描くときには、すれ違ったときにふと流れる香りやあでやかな色気などを。そんなものを描くために構図と描き込みを決めるのだとか。また、人物の顔を黒く塗りつぶすのは「空気を読んで想像で補ってもらうため」と。表情をわざと描かないことによって着物や髪の美しさに目が行き、ポーズや構図に目がいきます。計算去れ尽くされた緩急がそこにあるといえるでしょう。
「極彩色なのもね。昔の日本画って、今見ると渋いものばかりなようだけど、当時の人は総天然色の世界をみていたのだから、もっと鮮やかだったと考えてもおかしくないでしょう」と一笑。確かに復元した永観堂の天井と柱の塗りを見たことがありますが、実は当時の塗りは相当原色多様の派手なものだった様子。何も不思議はないどころか、これこそがリアルなのかもしれません。
■何を「武器」にイラストレーターとしてやっていくか
「自分の画風で勝負をしたいと思ってる画家はたくさん居るけど、どうしてだるま商店がその中で長く愛されると思う?」との問いに島さんは立ち上がってホワイトボードに図を描き始めました。
「アジアの、日本の、関西の、京都、とマトリョーシカみたいにどんどん守備範囲が小さくなると考えていると、これ、実は違うんですよ」ほほう。
「アジアの、日本の、関西の、京都、というのはこうブロックが一部重なるカタチで実はもっと領域外に一部ずつ突出していく形状。その一番先端のディープな京都部分はその場の人たちしか知らない世界。ここを武器にしたいけど、それじゃだめで、実際ちゃんと商売になるのは関西以降とがったアタリかな」と。
なるほど。近くてどこか遠い京都を説得力もって描き続けるのがコツなようです。
「あとは一年に一度くらい、残る大作を描く。自分が好きなように描く。それが後の仕事につながったりね」とも。
ベンチマークのようになってそれもよい案です。何年か後に振り返れるのもいいですね。
「それからやりたいことはとりあえず口に出す。ずっと言い続けてると仕事になります」と。
終始淡々と「なぜ続けてお仕事の話をもらえるのかわからない」とおっしゃるだるま商店さん。いやいや! 高い志とプロ意識、こだわりの作品を望むクライアントに好まれるのは当然、という気がした数十分でした。
こうしてだるま商店さんの秘密に迫ったあと、第二部の「みんなでライブペインティング」に移ります。
■ライブペインティング:現代の七福神を作り上げる
元々安西さんは、絵を描く道具に対する拘りはなかったとか。「アクリル絵の具だったり、岩絵の具を試してみたり」と笑います。ライブペインティングも、「だから筆でも全く問題ないですね」とさらり。
今回のテーマは七福神。長い時を経て色々な神が参加したり離れたり、造形も様々に変化してしていつしか出来上がったのが現代の七福神だそうです。
▲「これは誰か分かりますか?」画きながらクイズを出す安西さん。
安西さんの線画に対して島さんから「これは弁天さん。芸術の女神で、元はインドの神様」と注釈が入ります。
ロフトワークのスタッフがその注釈を付箋で下絵のそばに貼っていくのを追って、参加者が筆記具を手に思い思いに作画を始めました。
▲用意した画材は墨、朱墨、そのほかに色とりどりのマーカーも。「色も筆で塗りたかった!」という意見もありました。 筆、楽しいですね。
たちまち、画面がいろいろなイラストで埋まります。
弁天さんの顔、真っ黒なってもた…。美人かどうかなど、もうどうでもいいです。
杯がひたすら描き込まれたり、弊社の壁に元々あったアート作品を月に見立ててお月見団子が描かれたり、なぜかアスキーアートまで渋く筆で書き足される始末。京都のゆるキャラまゆまろも参戦していました。「絵描きさんにはできるだけ自由に描いて欲しいんで」と島さんは嬉しそうになさっておられました。たしかに最後に体裁を整えるのは我々のようなディレクターだったり、デザイナーさんだったり、という職業のかたの仕事です。
いやあ、…カオス!
「楽しい空気感でてる」と安西さんは満面の笑みで良かったのですが、参加者の皆さんにはちょっとキャンパスが狭かったのかも。それこそ隙間なく描き足され、出来上がった時にはとてもオフィスの中とは思えない光景が広がっていました。
皆さん楽しそうにしてくださったので良かったですが。
ライブペインティングのあとには懇親会。その間ずっと出来た絵に色を入れ続ける参加者の姿も。「今日は大きな所に思いっきり描けると訊いてきたので! とりあえず描きたい!」と。そんなに言って頂けると光栄です。
▲みんなの作品を一枚にしてみました。七福神、全部、見つけることができますか?
その後ひとしきり談笑してお開きになりましたが、またやりたいという意見をいくつもいただきました。ありがとうございます。
イラストの作画もたのしく、だるまさんのお話も凄く楽しいひとときで、みなさん満足していただけたようです。
またぜひどうぞ、よろしくお願いします!
だるま商店さんのサイトはこちら