UXデザインから紐解く自治体サービス “Citizen Journey Map”ワークショップ開催レポート

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09.Sep.2014

去る2014年8月7日、OpenUMプロジェクトによるワークショップ「OpenCU 自治体サイトのサービスを考える – Citizen Journey Map ワークショップ」が開催されました。ワークショップの内容は、グループ毎にジャーニーマップを作成して自治体サイトやサービスとの関わりから市民のコアな課題を抽出、その解決方法を提案するというものです。ここでは当日の様子をレポートします。

テキスト/OpenUM事務局

❏イベント概要
UXデザイナー坂本貴史さんによる自治体サイトのサービスを考える
~Citizen Journey Mapをつくろう~ワークショップ
日 時:2014年08月07日(木) 18:30~21:30
場 所:loftwork Lab 10F(渋谷区・道玄坂)
主 催:OpenUMプロジェクト
協 力:株式会社ロフトワーク、横浜市広報課
http://opencu.com/events/citizen-journey-map

 

はじめに、自治体サイトの現状

初めに、OpenUM プロジェクト事務局の安井秀行より、自治体サイト(サービス)の現状について話をいただきました。「誰もが関係し、誰もがお金を払っているが、誰もが良く知らない、自治体(サービス)」として、本来はもっと関心を持たれてもよい分野だが、関心が低い現状、その上で、非常に使いにくいサイトが多い課題をあげていました。

アスコエの安井さん

OpenUM プロジェクト事務局のアスコエ代表 安井秀行

横浜市からサイトに関連する課題の共有

ワークショップにご協力いただいた横浜市広報課の太田幸希さんからは、現状の横浜市における課題をご紹介いただきました。
「横浜市は政令指定都市ですが18の行政区があります。手続きによっては市と区とで窓口が異なることなどがあり、そうしたことが中々知られていない現状があります。また、横浜市のサイトでは同じ情報が区ごとに重複登録されている箇所もあり迷う原因になっていたりする」
とのこと。現在、横浜市のWebサイトはリニューアルの検討をはじめているとのこと。

今回のワークショップでも取り上げる「戸籍・住民票」については、毎年3万人の転入・転出者がおり、戸籍や住民票に関する問い合わせが多い現状 をあげました。引っ越しシーズンには、窓口が混雑することや、手続きが細分化されているものは電話で問い合わせてもらうほうが良いなど、運用者の生の声を聞くことができました。

横浜市の太田さん

横浜市広報課の太田幸希さん

市民と自治体サイトの関係をジャーニーマップに落とす

いよいよ同事務局のUXデザイナーの坂本貴史にバトンタッチして、ワークショップの開始です。

「今回のワークショップは、自治体サイトの提案だけを取り上げようと思ったが、UXから検討することで自治体サイトにとどまらない」として、解決案(ソリューション)は、”サイト以外の施策の提案でもOK”という流れになりました。

アイスブレイクでカード「カタルタ」を使った自己紹介をチーム内でしてもらい、参加者の温度が上がったところで、チームごとに配布されたペルソナ資料を読み解きます。

今回用意されたペルソナは5体あり、自治体サービスの利用者である「市民」にフォーカスしています。ペルソナに共通するのは「住民票や戸籍情報の手続き」です。平日に行けない主婦や、代理で手続きを進めることになったシニア層など、それぞれの背景を読み解き、ジャーニーマップに合わせて行動と感情を整理していきます。

【ペルソナ】

 

ジャーニーマップのフォーマットは、例として横軸に「利用前・利用中・利用後」として、縦軸に「行動・感情曲線」と決めて進めました。チームはそれぞれに割り当てられたペルソナと背景から、行動に関する情報は青色の付箋と、感情と思われる情報には赤色の付箋に記入しマッピングしていきます。

【完成した”Citizen Journey Map”】【完成した”Citizen Journey Map”】

 出来上がったジャーニーマップ

課題の抽出とソリューションの検討

マッピングされた「行動」と「感情」から、コアになる課題をチームで決めていきます。そのコアの課題に対しての解決策(ソリューション)を考えるところまでが今回のワークショップになるため、遅い時間にも関わらずチーム内でのディスカッションはかなり盛り上がり白熱していました。

ワークの様子ワークの様子

チームでのワークの様子

 

各チームのペルソナに共通している課題を見ていくと、手続きを行う以前に課題があることがわかりました。いずれも行政以外のサービスでも同じようなことが言えるかと思いますが、以下のような課題です。

・専門用語が多い、漢字が多い、きちんと翻訳されていない
・手続きが断片的で、全体の流れ(ステップ)がわかりにくい、無駄に多い
・自治体サイトに訪れる以前にも問題がある(ネットへの不信感など)

特に、手続きに対して「不満」を持つ市民は、市役所に来る前にすでに(Webサイトや手続きに対して)「不安」な状態であることがわかりました。このことから、その不安をいかに解消してあげることが大切だという気付きを得ることができました。

また、横浜市広報課の方々からは、Webサイトの情報量が多い問題に対して、「正確さ」を追求するあまり網羅性を求めてしまう傾向があるという説明もいただくことができました。そのため、情報過多になりやすい側面があるということでした。

 

発表と講評

各チームでのディスカッションを終えて、発表に移りました。

発表の様子

 

発表は、各チームで張り出した模造紙とスケッチを使い、発表者がプレゼンするというスタイルです。全員で発表チームの場所に移動するというもので、順番に発表と講評を行いました。発表していただいた内容には以下のような解決策(ソリューション)がありました。短い時間だったにも関わらず、非常に興味深い内容でした。

・バス停で、サイネージを活用し(市役所に行くための)注意喚起するサービス
・モバイルで、行政サービスの自動ガイダンス
・一連の手続きがまとめてわかる、次の手続きを示すサービス
・目的に合わせて、Web申請から目的地で書類を受け取るサービス
・行政機関共通で持つ運営者側の翻訳ガイドラインと統一化

発表後は、横浜市広報課の皆さんにも講評いただき、実現性と実際の課題とをお話いただきました。行政サービスとして考えた場合にはターゲットユーザーは市民全員になってしまいますが、ペルソナを前提にしたことで、個別の課題をもとに議論することができました。実際の自治体サイトの企画でも、網羅性を先行するのではなく、さまざまな角度から個別の課題を解決していくような取り組みができるといいと思いました。

講評を行う坂本さん

 最後に坂本からの講評

発表後には、坂本から「今後は、こうした課題解決をふまえたアウトプットを形にしていく取り組みにしていきたい」とあったように、行政といってもいろいろなサービスや手続きがあるため、違う切り口でこうしたワークショップができればと思います。

今後の取り組みにも注目したいと思います。OpenUMプロジェクトの情報は以下のURLからご覧ください。https://www.facebook.com/OpenUMProject

集合写真

参加者全員で記念写真

坂本貴史

ネットイヤーグループ株式会社
UXディレクター

2002年よりネットイヤーグループ株式会社に参加。主に、国内外の企業におけるイタラクティブマーケティング支援(コンサルティング)やWebサイト構築におけるクリエイティブディレクションを担当。とくに、Web情報アーキテクチャを設計する専門職インフォメーションアーキテクトとしても活動し、執筆・寄稿やセミナー講師なども行っている。

所属団体
Information Architecture Institute (IAI)
NPO法人 人間中心設計推進機構 (HCD-Net)

ネットイヤーグループ株式会社
個人ブログ「bookslope

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