人と本はもっと面白くなれる、いつもそう考えています
かつて、読書には同時性があった。少なくとも現在50代くらいの人たちは、学生ならば読んでおかなければならない1冊があったり、読んでいなければ会社での会話に入っていくことができない、といったシーンがあった。それだけ読書というのはコミュニケーションの一部になっていたのだ。しかし、現在、好みは細分化し情報の取得方法も多様化している。それぞれが違う方向を向いているような状況である。
しかし同じ本を読んだ人に出会うと、まるで友だちのように会話ができ楽しいのは変わりない。内沼さんはこの楽しさをサービスとして展開したいのだという。
「本の定期購読と、飲み会を定期的に開催してゆくサービスを考えています。読書会ではなく、あくまで定期購読+飲み会。本の読みを深めるというのももちろんありますが、それよりも本を介して友達が増えるというところに焦点を当てたいからです。本は人生を豊かにするけれど、それはただそこに書いてあることだけから得るものじゃない。カルチャースクールとか英会話学校のような習い事の新しい形として、大人の放課後っぽい感じで、本の楽しみを広がられたらいいなと思います。先日、とりあえず“『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』を読んだ人が集まって飲む会(http://www.facebook.com/events/391906937502696/)”というタイトルのただの飲み会を、テスト的にFacebookで企画してみました。20人の定員もすぐに埋まり、皆さんとっても楽しんでいただいたので、いけそうだなという感触を得ています」
“『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』を読んだ人が集まって飲む会”に、OpenCU編集部も参加!何より面白かったのは、同書の編集者、さらには、日本語訳を手がけようと数年前に原著を海外で入手し、タイミングを伺っていたところ、NHK出版に先を越されてしまったといういわくつき(!?)な面々と実際に会って話せるということ。これだけの人々が1冊の本で結ばれ、様々な思いでお酒を飲んで、笑って、美味しい食事ができるというのは、まさに新感覚の読書体験だった。
「とてもいいフィードバックを得られたので、ここからまたサービスの内容を作っていこうと思います。ゆくゆくは出版社と組んで小説の“下読み”をするクラスとか、違う方向に広がっていく可能性もあるかもしれませんね」
今後の展望
さて、前後編にわたってブック・コーディネーター・内沼さんのお仕事の今をご紹介したが、本だけでこれほどの企画を、内沼さんは一体どのように考えているのだろう? 仕事で心掛けていること、喜びを聞いてみた。
「きっと、本のことしか考えてないからですね(笑)。気をつけていることがあるとすれば、できるだけいろんな業界のいろんな出来事を見るようにしていることでしょうか。これを本でやるとどうなるだろう、と何でも本に置き換えて考えるクセがついていますね。僕の仕事は、本と人の “間” にあるものをつくること。だから、自分のアイデアを実現して、面白がってもらえると、それが一番嬉しいですね、やっぱり」
内沼さんは現在、博報堂ケトルと共同で下北沢に新しく本屋をオープンするために準備中だ。次はどんなに面白い人と本の繋がりが生まれるのだろう? この続きはぜひ、内沼さんの本屋にて。
(終わり)