ブック・コーディネーター・内沼晋太郎さんに聞く『これからの本との付き合い方』  前編

ブック・コーディネーター・内沼晋太郎さんに聞く『これからの本との付き合い方』

06.May.2012

「BIBLIOPHILIC」で得た、本の周辺の価値の見つけ方

 

「幸世の部屋」では、電子書籍の価値について言及したが、次はリアルの本のお話。しかも“本の周辺”のことについてだ。

都内を中心に展開するレコードショップdiskunionとのコラボ企画は興味深い。音楽好き、特にアナログレコード好きにはお馴染みの同店では、レコード針、レコードケース、オーディオケーブルなど“音周り”製品とともに、収納家具なども販売している。そして、内沼さんプロデュースにより、世界初の読書用品専門店「BIBLIOPHILIC」を昨年新宿にオープンした。

 

「本のある生活」を楽しむための読書用品ブランド「BIBLIOPHILIC」と音楽書専門店「bookunion」がコラボした店舗「BIBLIOPHILIC & bookunion 新宿」

 

BIBLIOPHILICはWebサイトを展開。丁寧にセレクトされた製品をオンラインで購入することができる

 

内沼晋太郎「“形から入る”と言われる人たちは、いかなる趣味にも存在しますよね。本の世界にもそういう関わり方があってもいいと思ったんです。例えば、patagoniaのようなアウトドアブランドの存在があります。あくまでプロに向けて徹底的に機能性を重視したものづくりをしながら、結果的には“山ガール”などと呼ばれるようなアマチュアな人たちにもファッションとして受け入れられる。それと同じで、読書家の人たちにとって本当に良いと感じてもらえるものを、きちんと統一感のあるブランドとして打ち出していくことによって、BIBLIOPHILICのモノを使うことでもっと読書したくなった、BIBLIOPHILICのモノを使いたいから読書をはじめてみたい、といったような、入門者を刺激できるような土壌を作っていきたいと考えています」

デザインがきれいな日記帳があるから日記をつけはじめる、かっこいい釣竿に憧れて釣りを趣味にする、それと同じことが読書の世界にあってもいいわけだ。

 

 

「音楽業界は電子化によってある種の再編がされた業界です。今回のクライアントであるdiskunionは、そうした業界再編の煽りを受けてタワーレコードやHMVが大きく事業を縮小していった中でもきちんと利益を出している会社。コアなファンに本当にいいものを届けていれば、いかに業界で大きなイノベーションが起こっても、価値を保ち続けることができるという信念のもとに経営されていて、それが成功している。マニアは裏切らないわけです」

本の道具、読書用品というジャンルが、読者と読書と、そして本を繋いでゆくことができる可能性があると考えています

本の世界でこれから起こる電子化の波の中で、本の良さを伝えてゆくためのヒントは音楽業界にあり、ということだろう。BIBLIOPHILICでは、「収集する」、「保護する」、「読む」、「持ち歩く」、「楽しむ」ための読書用品から、「本の本」として、ブックガイド等、本との関わり方の提案にも手を広げてゆくのだという。

「僕は、出版業界が音楽業界と同じようになるとは考えていません。ただ、多かれ少なかれ、これからますますデジタルメディア化が進んでいくことは必然です。その中でも、“読書をする”という趣味自体は変化しないはずで、そうした中でコアなファン層に求められるものは、ずっとあり続けると思います。それが結果的に、高品質なiPadケースであってもいいのです。本の道具、読書用品というジャンルが、読者と読書と、そして本を繋いでゆくことができる可能性があると考えています」

今後の内沼氏による“本の在り方を再定義していく活動”からますまず目が離せない。

(後編に続く)

内沼晋太郎

ブック・コーディネーター

1980年生まれインターネット育ち。一橋大学商学部商学科卒。国際見本市主催会社にて出版関連のイベントを担当後、2ヶ月で退社。フリーターとして千駄木・往来堂書店でスタッフなどをしながら、2003年、本と人との出会いを提供するブックユニット「book pick orchestra」を設立。2006年末まで代表をつとめ(現代表:川上洋平)、後に自身の「本とアイデア」のレーベル「numabooks」を設立し、現在に至る。
著書:『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』(朝日新聞出版/2009)

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