“まずは、おいしいエビちゃんを見つける”ことから。山崎和彦「エクスペリエンス・ビジョン」ワークショップレポート

exvision01-rep_03

21.Feb.2013

デザインを「つかう」ためにエクスペリエンス・ビジョンを学ぶ

ロフトワークのプロデューサー松井創です。ビジネスモデルを発想するためのフレームワーク「エクスペリエンス・ビジョン」を学ぶワークショップが2013年2月から全3回に渡り開催されます。著者の一人、千葉工業大学の山崎和彦先生の主導のもと、先日、第1回目のワークショップが実施されました。

「これまでの日本のデザインはブラックボックス化していて、デザイナーという職種はどこか特別な存在に扱われ、ビジネスとは切り離されて見られる事が多かった。色んな領域で、もっとデザインを”つかって”ほしいと思っています」

ワークショップの冒頭で、『エクスペリエンス・ビジョン』を5年の歳月をかけ上梓した背景を上記のように語ってくれた山崎さん。デザインを活用するためのエクスペリエンス・ビジョンの考え方・手法・アプローチを知るワークショップの様子をレポートします。

 

 

スタートは「おいしいエビちゃんを見つける」ことから

日本メーカーが得意としてきたことは、「問題解決型」。ユーザーの声(直接的ニーズ)を真面目に聞いて改善する、そしてまた改善する―—「もっと軽い掃除機を、もっと使い易いハンドルを」といった品質アップを繰り返し、愚直に市場投入してきました。一方、iPhoneなど国外の新しい「提案型」の商品やサービスがヒットを飛ばしているのは何故か。「それはエクスペリエンス・ビジョンがあるか否かの違い。」と山崎さん。

直接的ニーズをもとに商品開発する問題解決型に対し、ユーザーの意見に耳を傾けつつも、一度、目下の直接的ニーズから「本質的要求(頂上)」まで登りつめ、その頂上から市場(ビジネス)へ”ジャンプ”する(下図)。

まずは俯瞰すること

 

ニーズに潜む本質的欲求を引き出し、本質的な価値を見い出し、概念化する=ビジョンを描き高みから市場を望むことが、エクスペリエンス・ビジョンの第一歩です。

山崎さん曰く、エクスペリエンス・ビジョンの頭文字「エビ」を見つけること。(エビはすなわち価値)「中でも”美味しい”エビちゃんを見つけ、サービスや商品を発想し、バリューシナリオを描きましょう。」

では、どのようにして、美味しいエビを見つければ良いのでしょうか。会場をワークショップ形式に変え、「エビ探し」を体験します。

 

ユーザーの本質的要求を引き出してみる

4〜5名のグループに分かれてワークショップがはじまります。初めに自己紹介で「いま現在、大事にしていること(自分のビジョン、目標)」を紹介しあい、グループごとに1名のユーザー(ビジョンを助けて欲しい人)を決めます。ユーザーになった人から「私のビジョンは、新しい音楽体験をつくりたい」と発表があると会場は拍手で沸きました。

次にユーザーに対してメンバーがインタビューします。インタビューのポイントとしては、

  1. ラポールの形成からはじめる
  2. オープンマインドで相手を受け入れる
  3. 大事にしていること・大切にしていることを聞く
  4. 具体的な状況=コンテクストを聞いてみる
  5. 共感する=愛する

などが山崎さんから紹介されました。

インタビューは一問一答を付箋に1枚ずつ描きだしていきます。できるだけ多くの切口でインタビューする事、沢山書き出すことがポイントです。

 

インタビューで聞き出したユーザーの言葉(書き出した付箋)を大きな1枚紙で整理していきます。

インタビューの結果を模造紙に整理

模造紙は、3つの領域「1.事象」「2.潜在ニーズ」「3.本質的要求」に区切ります。最初、全ての付箋は事象の領域に全てあります。次のステップでは、事象の領域に挙ったユーザーの声について、メンバー全員でディスカッションし、「ユーザーは、本当はこうしたいのではないか」という潜在的ニーズを書き出していきます。

1の領域は、あくまで事実ですが、2の領域は、潜在的要求である為、ユーザーが正しい事を言っているとは限りません。事実に基づいて潜在的部分を考え付けたす―—このステップにおいては、どのグループメンバーも苦戦したようです。

最後に潜在ニーズから本質的要求を見つけ出します。これは潜在ニーズの中でも最上位のニーズを挙げるので、付箋の数は絞られてきます。本質的要求を見つけるという行為自体、専門的技術を要するのではと思い込みんでいましたが手法はとてもシンプルでした。

こうしてユーザーインタビューから潜在的ニーズを考え、本質的要求を引き出す方法をワークを通じて体験できました。

 

UXマップを描いて可視化する

本日最後のワークでは、ユーザーが現状どのような体験・行動をしているかを視覚化する為にユーザー・エクスペリエンス・マップをつくりました。

今回は、横軸を「時間軸」として固定しましたが、タテ軸はグループごとに考えてもらいました。例えば、軸の設定には、「バリュー/アクティビティ/インタラクション」など様々な軸があり得ます。山崎さんは、「マップ化のポイントは、軸の設定です。色んな軸をつくってみましょう。自分たちで大事なことを理解して、考えてマップをつくることが大切。結果、いろいろなマップがあっていい。本質を探る為の手法は色々あって良いし、既存のフレームワークにあてはめて考えることより、むしろフレームをどう外すかが大切。」
山崎さんから本日、最大の学びを得たお話でした。

マップ化をするために情報を整理

マップ化を行うワーク

今回のワークショップは以上でタイムオーバー。限られた時間の中で多く考え、手を動かし、「エビ探し」の一端を体験することができました。

次回は、本質的要求から「どうジャンプするか。」エクスペリエンス・ビジョンの発想、そしてバリューシナリオの描き方について学んでいきます。

 

山崎和彦

千葉工業大学デザイン科学科教授

http://kazkazdesign.blogspot.jp
京都工芸繊維大学卒業後,クリナップにて企画デザイン,日本IBMにてデザインを担当,ThinkPadブランドの育成に貢献,日本IBM(株)デザインセンター・マネージャー (技術理事)を経て2007年より現職。神戸芸術工科大学博士(芸術工学)。人間中心設計機構副理事長,日本デザイン学会理事、グッドデザイン賞審査委員、日本インダストリアルデザイナー協会理事。

専門は製品やシステムに関するユーザーエクスペリエンス、プロダクトデザイン,ユーザーセンタードデザイン,情報デザイン,デザインマネージメント等に関連する実践、教育、研究およびコンサルティング。
おもな著書は「使いやすさのためのデザイン」、「デザインセクションに見る創造的マネージメントの要諦」、「プロダクトデザイン」、「情報デザインの教室」、「エクスペリエンス・ビジョン」。作品はiFデザイン賞(ドイツ),IDEAデザイン賞(米国),グッドデザイン賞(日本)など世界の著名なデザイン賞を70件以上受賞。2001年にニューヨーク近代美術館WorkSphere展にて作品が選定。特許・意匠登録を合計50点以上世界各地で登録済。

More Contents

  • Top
  • Ideas
  • “まずは、おいしいエビちゃんを見つける”ことから。山崎和彦「エクスペリエンス・ビジョン」ワークショップレポート