大野友資 決めないデザインワークショップレポート

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12.Apr.2017

プロダクト制作におけるテクノロジーの進化によって、デザインと制作のプロセスがどんどん近づき、いわゆる“ものづくり革命”が起きていると言われる昨今。その本質は“手軽にローコストで制作できること”にあるのではなく、“デジタルデータによるデザインの可変性によって、積極的に「決めないこと」”にあるのではないかと考えました。
そこでデジタルデザインの本質の一つを《決めないデザイン》と名付け、『360°Book』の作者であり、YouFab2012のグランプリ、海外の広告賞などでの実績を持つ建築家・大野友資さんを講師に迎え、2017年3月3日間のワークショップを開催。その模様をダイジェストでお届けします。

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大野友資「決めないデザイン」ワークショップビジュアル〜プロダクトまでデジタルデザインを拡張する
「可変」と「プロトコル」設計

DAY1:《決めないデザイン》の4つの要素とは?

建築家として建築やインテリア、またインスタレーションなど展示の設計も手掛ける一方、東京藝術大学の講師も務める大野さん。

「仕事では家具などのプロダクトから建築や都市設計まで分野は広いのですが、それらを区別することなく同じ思考で捉えています。そこには、“頭で考えた情報(イメージ)を、物質として触れる状態に変える”という共通点があるんです。今回、この講座では、そのような行為のなかで、僕自身が実践している手法を“決めないデザイン”と命名したので、みなさんとぜひ共有したいと考えています」と冒頭、話しはじめました。

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「現代の建築のプロセスを考えてみると、建築家(設計者)は図面を描きますが、実際に施工して物質化するのは施工者です。情報から物質へというルートで見ると、かなり分断された状態だと言えます。しかし、江戸時代以前は、大工の棟梁が自分の頭の中にある完成イメージを自分の手でつくっていて、“考えること”と“つくること”がかなり近い状態でした。その視点で見ると、デジタル技術を使ったものづくりは、設計したデータがそのまま機械を動かす制作ファイルとして使われるという点で、現代のプロダクト制作や建築とは逆のベクトルへ向かっていますよね。昨今、人気になっているDIY/リノベーションも、“自分で考えたものをつくってしまおう”という考え方なので、極端な話デジタルとDIYは相性がとても良かったりするんです。

・どこからどこをコントロールすると、自分の作品なのか?
・どこまで自分が手綱を握るのか?
・設計において、何を決めて、何を決めないか?
・図面にどこまで描き込むか、データはどこまで作り込むのか?

これらをコントトールすることで、「考えること」と「つくること」の比率を変えて、アウトプットの豊かさが大きく変わり、その後の応用性や展開可能性が広がります。

例えば、靴のパーツを選んでオリジナルシューズがつくれる「NIKEiD」であてはめてみると、配色や素材の選択によって高いカスタマイズ性を実現しています。これが可能になったのは、テクノロジーの進化によって、一品生産ではなくマスタマイゼーション(多品種少量生産)ができるようになったからですよね。

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NIKE IDのスニーカーカスタマイズ画面。スニーカーを幾つかの要素に分け(本体、ソール、紐、ロゴなど)ユーザーはブラウザ上で、配色を設定できる。また、本体の素材(スウェード、レザー、メッシュなど)を選ぶことも可能

こうした背景を踏まえ、大野さんは《決めないデザイン》に含まれる4つの要素を導き出したと言います。ひとつずつ見ていきましょう。

 

1. 変数

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パラメーターと呼ばれるものです。素因数分解をするようにあるもの中から重要な要素を見つけ出し、数値化する作業を指します。具体的に傘のパラメーターを考えてみると、重さや長さ、柄の形、開く角度などを取り出せて、様々な傘をそれらの数値の組み合わせで表現できるといった調子です。

この考え方で3D CADの業界標準ソフトウエア「Grasshopper(グラスホッパー)」というプラグインを使って、壺のようなものをつくってみると、高さや半径などの変数を変えるだけで、手作業では気が遠くなるほどの多彩なバリエーションが生まれます。こうしたパラメーター(変数)を用いたデザインは“パラメトリックデザイン”と呼ばれ、FabCafeのエントランスもこの手法を一部取り入れてデザインされているそうです。

「これを作りたい!と決め打ちするのではなく、“どれだけぼんやりした状態で設計を止められるか”がポイントになります」(大野さん)

 

2. 単位

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単位とはつまり、重さや長さといった次元の違う尺度で考えてみることです。大野さんが21_21 DESIGN SIGHTの企画展「単位展」に出品した「ことば の おもみ」という作品を例に見てみましょう。

 

これは文字の重さを測ってみようというプロジェクトです。例えば「檸檬」と「杏子」という漢字であれば、画数の多い「檸檬」の方がなんとなく重そうだと感じませんか?しかし、「しごと」と「かてい」という言葉を比べようと思ったら、一目ではわかりません。そこで、面積を測って一文字の重さを測ってみたところ、「かてい」の方が少しだけ重いことがわかりました。

このように単位で考えてみると、これまでになかった世界が広がります。ここで重要なのは、最終的なアウトプットではなく、“ルールをつくる”というところ。このしくみを使うことで、「ハングルだったら、どうだろう?」「フォントを変えたら、どうなるかな?」といったように、新しい考え方や見方が生まれるのです。

 

3. 形式

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形式=フォーマットで考えるということについて理解するには、大野さんの代表的なプロダクト「360° BOOK」がわかりやすいです。「360° BOOK」は本が360°に開いて、中から立体が出てくるというものです。3D CADでつくった立体のデータをスライスして、2次元に落とした紙を手作業でつなぎ合わせるという、つくり方をしています。

「一番価値があるのは、均等に紙が360°開くというフォーマットをデザインしたところであり、極論、中身はどうでもいいんです。僕は絵本作家ではないから」と話す大野さん。こういう心構えでデザインすることによって、「こういうもので作れませんか?」と持ちかけられ、宇宙兄弟やLEXUS、KIRINなど様々な他業種とのコラボレーションが実現したと言います。

「大事なのは応用や展開の可能性を考えて、シンプルなしくみを考えることです」(大野さん)

 

4. 誤解

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Fantastic Japanese Recipe (TV Program)

《決めないデザイン》の中で非常に重要なのが、“ぶれ・むら・ゆらぎ”といった誤解を許容しコントロールすることです。デジタルデータは可変性があり、常にぶれた状態だと言えます。そうした部分を楽しんでいこう、クリエイティブに使っていこう、というのが誤解の真髄なのです。

例として、大野さんはNHKで放送されていた「妄想ニホン料理」という番組を紹介しました。世界各国のレストランなどに行って、ニホン料理のタイトルと3行で簡単な説明だけをして、どんな料理か妄想して、実際に作ってもらおうというもの。

例えばメロンパンは、

1.メロンパンとはメロンのパンという意味であるが、メロンは使わない
2.上から触った時としたから触った時で食感が違う
3.食べた時、口の中にくっつくことがある

という説明だけで、どんな食べ物か妄想してつくってもらいます。

この3つの説明の選び方こそが、デザインの肝。

どこをぶれさせないかというアンカーポイントを示しており、逆にそれ以外の誤解は許容するということなのです。その国の文化や背景を踏まえて誤解させることで、その国の人たちが喜ぶクオリティの高い新たな料理が生まれる。正しいメロンパンではなかったとしても、失敗したとはならないんですね。どんなクリエイティブの場所でも、誤解されるような状態にわざと持っていって、それを良しとするようなものづくりができれば、豊かなものが生まれることがわかります。

最後に大野さんが最近気になっていることとして、マリオ カルポ著『アルファベット そして アルゴリズム』という本を紹介してくれました。

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この本は、ルネサンス以降の建築で登場した図面が、ものづくりを他人事にしてしまったというところから始まり、そこからデジタルによって、考えたものがそのままちゃんとデジタルファブリケーションでつくられる世界になるという“デジタル・ターン”について書かれた本です。技術が高度になることによって、機械化が推し進めてきた単一化・効率化・合理化の流れに乗ることなく、「ぜんぶ同じものを作らなくてもいい」「大量生産しなくてもいい」という緩いものづくりができるようになった、というわけです。

以上でDAY1の講義は終わり。大野さんのお話を踏まえ、後半のワークショップでは、組み木を取り入れた大野さんの作品「壁継」を使い、凸の部分に何をはめ込むか考えてみるというワークショップが行われました。

この「壁継」は、まさに「3. 形式」を使ってデザインされており、あえて凹の部分しかつくらないことで、使う人が好きな機能を拡張できるよう、余白を残したものになっています。

DAY2:《決めないデザイン》で生まれる多彩なデザイン

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2日目は《決めないデザイン》を実践されているプロダクトデザイナーの小宮山洋さんをゲストにお迎えして、小宮山さんが普段どのようにデザインされているか、お話を伺うところからスタートしました。

小宮山さんは子ども時代を振り返り、絵画教室で培った“観察すること”の重要性を説きます。「おそらく大野さんも《決めないデザイン》の視点にたどりつくまでに、デジタルファブリケーションに対する観察があったのではないか。普段の生活の中で“主体的に観る(観察する)”訓練をしていたことが、今につながっていると感じています」(小宮山さん)

そして、小宮山さんが個人的に行っているプロジェクト「とある道具」について紹介しました。「昔から受け継がれてきた道具であること」「使う人が自分で作ったまだ売っていない道具であること」という自分が課した2つのルールにのっとり、現在400点の道具を採取しているのだと言います。「道具を観察する際に、抽象度の高いルールを与えることで、同じフォーマットで収集していたとしても、別のテーマになったときに応用が可能になるので、ぜひみなさんもやってみてほしい」。

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次に、実際に小宮山さんが行っているデジタルファブリケーションに近い活動へと、話は進みます。「Sinkmarks」と名付けられたトレーは、1つの金型を使い、同じ行程でつくりながらも、それぞれ個性の異なる作品になっているのが特長です。なぜこのような形になるのかというと、温かい樹脂を金型に押し込んだときに、熱凝縮によって生じる“ヒケ”と呼ばれるネガティブな現象をわざと起こすことで、一点物をつくっているのだそう。

Gravity」という作品も、本来同じものができるはずのプロセスに何かを加えることで、一点物を生み出しています。このつくり方は、30個のペットボトルを買ってきて、外形をスキャンして平均値をとり、そこから起こした金型にアクリル流して作ったボトルが冷える前に、職人さんが天井から落とすというユニークなもの。職人さんの落とし方のさじ加減によって、最終形が変わるんですね。

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http://experimental-creations.com/ja/mold/ より

こちらはサントリーの「DNA GLASS」プロジェクト。遺伝子データを使って、ひとりひとりに最適なグラスを作るというものです。独自のアルゴリズムを搭載したジェネレーターを使って、グラスの形状に不備がないよう、膨大なシミュレーションを行ったと言います。例えば、遺伝子の結果から「アルコールに強いか弱いか」によって容量の設定ができたり、「苦味を感じやすいかどうか」によってグラスの厚みを変えたり。複数の変数を変えることで、個人に最適化することで、見事に違う形のグラスをつくることに成功しています。

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DNA GLASS より

「『準備・気づき・つくり方をつくる』という一連のプロセスは、プロジェクトを進める上で非常に重要なテーマだと思っています」(小宮山さん)

2日目のワークは、「どこまでがAどこからがB」というタイトルで、《決めないデザイン》で重要な4つの要素「変数・単位・形式・誤解」を意識しながら、それぞれに配られたテーマを構成する要素を抽出し、変数(パラメーター)を設定していきました。

 

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DAY3:参加者チームで考えた《決めないデザイン》名称未設定-1

最終日には、DAY01/02で考察を深めたテーマについて、全5チームでの発表が行われました。例えば、滑り台を取り上げたチームは、滑り台のパラメータを「角度がある」「滑らかである」「動力がいらない」「距離を伴う」「何かをすべらせる」に分け、そのパラメーターを極端に振ったもの二案、中間をとったもの一案を提示。結果として予想もつかなかったアウトプットが出てきました。

このチームの例ように、決めないデザインは、その言葉とは逆説的に、一定の軸を決めることでもあります。そして、アウトプットを予想するのではなく、10〜100といったパラメーターの組合せを設定し、プロトタイプを繰り返すことで、自分の想像を越えたアウトプットが起こることが達成の証と言えます。

デザイン思考やKJ法などのアイデアを整理する手法、そこから新しい関係性や文脈を見出すことが、さまざまなデザインに求められるのかもしれません。

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テキスト:野本 纏花(@nomado617

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