PUBLIC TALK #1[パブリック×シェア]小林弘人×林千晶 イベントレポート!

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06.Mar.2012

友達になりたくなるような企業が今、もっとも必要とされている(小林)

今、企業がパブリック、つまり自社のナレッジを共有して、社会に貢献することを通して利益を生んでゆく仕組みにシフトする可能性があるという。では、パブリックになることで企業は、ユーザーはどんなメリットがあるのだろう?

 これから日本のどこをパブリックスペースにしたい?と言われたら、日本の企業をどんどんパブリックスペース化したいと私は思いますね。例えば、とある企業の特許技術をユーザー誰もが使えて、そのお礼に何かをユーザーが企業に返していく、というような社会です。

小林 企業は法人と言いますが、もし個人だったら、相当に変なやつなんですよ(笑)。例えば、収入も全部開示していて、すごく透明。個人なら、財布の中身や収入についてすべて隠さない人間。しかし、人の話を聞かないし、あまり仲間と分け合わない。おまけに何考えてるのか分からない、でも口を開けば自分の自分のことばかり、つまり、新製品のことばっかりしゃべる。ソーシャルメディアで見たとき、個人と法人って同じ水平に並びますよね。このギャップを埋めるために、企業のパブリック化、つまるところ、人の話を聞いたり、製品の話以外に自分の考えを述べたりするなど、対話による目線合わせは必要だと思います。

でも、いきなりパブリックになることは難しいので、今後重要なのは、企業は顧客にものを売りつける時だけ優しいフリをするのではなく、もっと顧客を支援していくことが大切だと思います。世界ではすでにオープンイノベーションやコ・クリエーションなどの潮流が生まれている。そして、企業同士で製品やサービスを共創したり、それらを支援するツールがでてきている。

例えば、僕は書籍『メディア化する企業はなぜ強いのか』で、パブリックのひとつ“アドボカシーマーケティング”について触れています。アドボカシーとは支援のこと。つまり、顧客のニーズに応えるとき、場合によっては他社のものも勧めて、顧客満足度を上げることです。その時は競合に譲っているわけだから確かに損をするかもしれないけれど、長い目では信頼を築ける。もし法人が個人だったときに「あいつの言うことはたいてい正しい。そして、そんなあいつが自信をもって薦める製品やサービスも悪くないよね」と思われることでエンゲージメントが創出できるわけです。

 でも、そうした企業の社会的意義や共益・互恵のお話をすると、シェアやパブリックを体感していない人からすると、所詮”きれい事”として片付けられてしまいがちです。そもそもお金に直接つながらない、と批判もありますよね。でも、今伸びていく企業は企業のビジネス成長と社会への貢献が一致している会社でしょう? どうしてもっと気づいていける企業が生まれてこないのだろう?

小林 20世紀に培われた経営基板が結構頑丈にできているせいでしょうね。長い目で見たら問題は確実に進行しているんだけど、突然来月の売り上げが落ちるわけではないから、まだ転換できない。もっといえば僕は人事制度の問題だと思いますね。失敗したひとを許さない風土というものがあります。僕は、ビジネスの失敗は、それが小さくて良い失敗だったら成功だと思うんです。悪くて大きな失敗はただの失敗だから、学べきものがない。しかし、致命的ではない失敗によって、次は同じ轍は踏まないということを学べるのであれば、なるべく若いうちにたくさん小さな失敗をしたほうがいいんですよ。なのに企業はそんな小さな失敗もさせまいとする。無論、小さな失敗をさせるには、それなりの余裕が必要なので、できる企業は限られるでしょう。でも、皆、同僚や部下の小さな失敗を憎むくせに、経営陣による損失飛ばしの隠蔽というような大きな失敗には目をつむる。変化できないのだと思います。変化にすら、小さな失敗は付きものですから。

 小さい失敗をしながら学んでいって、大きい失敗しないようにするのは、シェアのラーニングプロセスに似てますよね。

小林 オープンやシェアは、リスクへの許容度をどう考えるかで見え方がまるで違ってくる。もちろん、ただの性善説に陥ってしまってはダメなんですが、僕はシェアやパブリックは旅と同じだと思います。旅に出る時にスリに遭うリスクがあるというだけで旅をしないというのは、なんだかつまらない発想ですよね。自分で決めて、リスクもとっていく代わりに、どんな利益が得られるのか。旅は、理屈だけで成立していない。シェアにも、そういうスタンスが大切なんじゃないかな。

小林弘人

株式会社インフォバーン
代表取締役CEO

1994年ワイアード誌の日本版を創刊して編集長を務める。1998年に株式会社インフォバーンを設立、月刊誌や書籍を創刊(07年に事業売却)。2006年には全米で著名なブログメディアの「ギズモード」の日本版を立ち上げる。ブログ黎明期から有名人ブログのプロデュースに携わり、ブログ出版の先鞭をつけるなど、ITメディア界の仕掛け人として多方面で活躍。通称「こばへん」。現在、東京大学大学院情報学環の非常勤講師及びBBT大学の教授を務める。

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