今、世界では国がオープン化し始めている(林)
世界では国が本当の意味でパブリック化しているという。さらには今、シェアすることによって生み出される多様性に、クリエイティビティの源泉が移行しつつあるという。
林 アメリカだと国が持っているデータを全てオープンにしてパブリックな財産として提供するオープンガバメントイニシアチブという考え方があります。オープンにすることで、国が持っている情報を使って民間企業がアプリも作れるし、教育にも使える。最新のものでは、国が持っているデータと地域GPSを使って、パブリックサービスのバスがあと何分で来るかが分かるサービスにして提供している。さらに、その流れがオーストラリアをはじめとするブリティッシュコモンウェルズとかでも同時多発的に起こってきている。どんどん国がオープンになってきているんです。
国内でも経済産業省と連携する「ツタグラ」が“伝わるインフォグラフィックス”として、国がオープン化している情報を使って日本の抱えている課題や情報をグラフィック化する取り組みも行っています。
小林 3.11の時の節電ポスターのような力がもっと生まれてくるといいですよね。
林 さらにシェアによって広がる多様性の社会効果をマサチューセッツ工科大学(MIT)とハーバード大学が研究しています。多様なスキルを持っている人が集まると、単スキルより複雑なモノが作れる。そして複雑なものは最終的には富につながりやすい、ということを経済学的に調査しているんですね。そのデータによると、例えば今までは教育が国のGDPを上げると言われてきたけれど、GDPは多様性と連動することが明らかにされています。教育時間ではないんですね。シェアというのがどれだけ重要な概念かが世界的にも証明されつつあるわけです。
とはいえ、クリエイティブ・コモンズやシェアの話をするたびに、「何のためにシェアしないといけないの?」というのはよく問われます。そして著作権管理をもっと厳しくすべきと言うアーティストもいます。もっとはっきりさせて分配されるべきだというのが彼らの主張です。でも、長い目で見たときにシェアすることで損をするわけではなくて、いろんな人と接点を持てるきっかけになるんです。自分の作品をシェアしたことで、誰かのノウハウが自分のものになったりする。要はいろんなものをオープンにしてシェアすると、人のためというのはもちろんあるけど、それが接点になって、自分がいいパワーを得ていく循環を生み出せるんです。
小林 社会そのものがスタンドアローンだったら孤絶したままで発展しませんものね。違う共同体と共同体をつなぐのが旅人だとしたら、その旅人が行き交うことで“交通”が成立します。そんな交通によって見えない価値が生まれてくる。アートの世界もそうだと思います。とあるアーティストは、必ず影響を受けている他のアーティストがいるものです。で、そのアーティストはその影響を受けたアーティスト達にお金払ったかというとそうではないことがほとんどです。つまり、そもそもアートを包含するカルチャー・シーンでは水面下でシェアが行われて、互いにマッシュアップし、新たなものを生みだしている。
逆にシェアで有名になったアーティストも数多く生まれています。マイクロファンディングサービスである「Kickstarter」で寄付を募って、世界的に注目されるアーティストが生まれることも珍しくなくなってきました。短編映画だったらKickstarterで集めて、いきなり世界に挑戦してみることが逆に近道になるかもしれない。アイデアさえよければ観客が多いところで一瞬でスターになれる。拒絶して、交通しないよりも、交通がその人自身を見えない所に運んでくれる可能性がある。