胸張ってサラリーマンをやってるか!?
須田氏が課外活動を含め、すべてのプロジェクトで常に自問するとともに仲間に問いかけるのが、
「それで誰が笑顔になるの?」
という言葉だ。
「よく“お客様の幸せのため”なんて言われますけど、幸せって概念は主観的で多様性があるために、多くのひとの幸せを作ることはとても難しいと思うんです。笑顔は確かに幸せの現れなんですが、直感的に出るもの。幸せな笑顔もあるし、心が温まって出る笑顔もある。あるいは単純に“ファニー”な笑顔だったり、何か心を通わせたときだったり。僕はサービスを含めたメーカーなので、そうした笑顔を生み出せるモノを作らないといけない。そのことはとても気をつけています」
こうして須田氏が、笑顔のためのモノづくりを意識したのは、実際に自分が作ったものの先にある笑顔を見てしまったからだという。
「実は、インターネットカラオケの事業には、正直最初はあまりモチベーションが上がらなかったんです。しかし、ユーザビリティーテストでお客さんが実際に歌うのを見たことがあったんです。その現場で、誰も使わねえよ、なんて内心思っていたサービスを、“いつも家に帰って奥さんとこうして歌うんです!”って笑顔で話す旦那さんの姿を見たとき、もうボロボロ泣いちゃって…何がなんでも、提供する曲数を増やそう!プレイヤーも作ろう!と熱く思いましたね」
仕事に追いやられていると、なかなか自分の手がけたものが届いているところまでを見る機会は少ない。でも、誰しも自分の作ったものが人を笑顔にしている、というのを目の当たりにすれば、仕事に対する気持ちは大きく変わるに違いない。
「自分個人の成功も大事だけど、お客さんにいいものを届けるときに、潤沢な資金と有能な人材がすでに揃っている環境があって、大声上げて動けるならそれを楽しむべきだと思います。不景気もあって、会社や大企業は今、ネガティブな文脈で話されがちです。でも、会社の悪口を言ったりして自分の立ち位置をネガティブにしているエネルギー、もったいないですよ。僕は自分の立ち位置にはポジティブだし、その先に人の笑顔があるかどうかしか考えていない。サラリーマンが甘えだとか言われることもたまにあるけど、僕はそれで結構。甘えでも何でも、僕の近くで不幸そうな顔してるやついねえぞって思います。そうやって胸張って、サラリーマンやっていますよ」
よい仕事をするためには、自分に与えられた場所でベストをつくすこと、そしてベストを尽くせる状態に自分をもっていくためにはどうすべきかを考えることが重要だ。それはサラリーマンでも起業家でも、アーティストでも変わらない。須田氏の場合、自分のつくったものの先の笑顔を見たい、という気持ちにどこまでも正直に生きてゆくことでそれを体現している。まさに人の笑顔には、人を変え、人を動かす強力なパワーがあるのだ。