実は“単純”ではない『Simple』をめぐる話 〜9/18レポート Simple×Design 原研哉×林信行

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27.Sep.2012

ワークの様子
二人のセッション後、参加者が質問や感想を白いインデックスに書いて壁一面に貼るワークが行なわれた。ここでの疑問は、続いてのTalkSessionでも取り上げられた

TalkSession:原研哉氏×林信行氏×川島蓉子×林千晶

デザインとは
世界が生き延びてゆくために
必要な“教養”である。

シンプルをめぐる、深い思索――――。林さんと原さんのお話を聞き終えた会場には、静かな、しかし、知的興奮に満ちた一体感が生まれていました。ここからは、スペシャルゲストの川島蓉子さん(伊藤忠ファッションシステム)と林千晶(ロフトワーク)、そして聴衆のみなさんを交えたクロストークの時間。いくつもの質問や意見が飛び交ったこの時間帯には、印象的なやりとりが数多く行われました。

たとえば、原さんのプレゼンテーションを受けた林さんは、iPadを例に取りながら、アップル製品の持つエンプティネスについて話します。

「原さんのお話を聞いて、ソフトウェアの部分にエンプティネスに近いものを埋め込んであることが、アップルの強さなのかもしれないと思いました。たとえば、iPadはものすごくシンプルな設計で、ボタンはただひとつだけ。男性向けでも女性向けでもなければ、子供向けでも老人向けでもありません。私はよく『iPadは鏡のようなものだ』というのですが、ユーザーが自分自身を投影して、あらゆる使い方をすることができます。実際に、フィットネス機器のディスプレイやレストランのレジ、航空会社の電子マニュアル、漁業の支援機器、医療機器……など、あらゆる使用用途に使われています」

また「無印良品は、iPadを作れるか」という参加者からの質問に対して原さんは、こう答えました。

「無印良品には、iPadはできないですよね。無印良品は、何かを構築的に作ろうという意思よりも、何かを掃除していくという観点からできたもの。だからこそ、悔しくはあります。アップルのプロダクトは完璧にエンプティ。本来日本人にしかできないだろうと思っていたはずのものを、アップルが作ってしまったんです。iPhoneやiPadのすごさは、素晴らしい機能が入っているからことではなく、そこに自分自身が投影されること。完璧にアナタになりきりますというツールなんですね。それは無印のようにテクノロジーからあえて距離を置いたところに美意識をもっているブランドとは、やはり本質的に違うところで成り立っていると思います」

「なぜ日本のメーカーがアップルになれないのか」という問いに対して林さんは、縦割りの開発体制をはじめとする組織構造の問題に言及。林千晶はMITメディアラボの参加企業の例を取りつつ、企業間のコラボレーションや情報開示に対してポジティブになっている、日本メーカーの現状を付け加えました。

そして「今の日本に足りない、デザインやシンプルさとはなにか」という質問に対して「日本には優秀なデザイナーやアーティストがたくさんいるけれど、優秀なデザイナーの能力を製品開発の最後の装飾的な部分だけに使われてしまっている。むしろ問題なのは、メーカーとデザイナーの関係。能力を発揮するチャンスこそが必要」と林さん。

 

さらに、川島蓉子さんが「そもそもデザインの定義がバラバラで、表層的な形を仕上げるのがデザインという人もいれば、概念から作っていくのがデザインだという人もいる。原さんにとってのデザインとは?」と話を展開すると…。

 

「デザインとは何か。一般的に僕は“掃除”と言っています。とにかくきれいに掃除すること。だから僕のデザインなんて最近は『どこにデザインがあるんですか?』と言われてしまう(笑)。しかし、考えてみれば人間だけが環境を自分たちで作り上げてきているわけです。そこにある椅子もテーブルも、コンクリも、椅子の先のゴムのキャップでさえもが、人間の英知が詰まったデザインなんです。そういうことに気がついた瞬間、世界が変わって見える。それがデザインであり、世界が生き延びていくために大切な教養だと思います。そこがわかってなくて、いまだにデザインをスタイリングだと思っている人はいないと信じたいですね」と原さん。

トークセッションの様子

また、林千晶は「林さんや原さんの言うシンプルやエンプティネスというのは、安易なことでも簡単なことでもなく、複雑さを突出させようという力だと思います。ただ、もともと日本人は『○○道』のように、物事を極めていける性質を持っているはず。日本の企業や禅に影響を受けたスティーブ・ジョブズがアップルを作り、私たちを感動させている今、私たちがそれをどう日本的に解釈し、新しい価値を生み出していくのか。まだ私たちががんばれるところは色々あると感じました」とここまでを振り返ります。

ほかに「“白”という色と、その対極にある色とは」、「商品の流通やビジネスモデルの構築にまで及ぶアップルのデザイン力」。「アノニマスデザインとシンプルの違い」「情報過多と言われる現状における、シンプルシンキングについて」など、数多くの話題が続々と登場したこの日のトークセッション。デザインという領域を軽やかに飛び越え、企業経営や、歴史民俗、人と物、哲学、そして未来にまで話題が及んだその内容は、「シンプル」という言葉が持つ奥深さをそのまま物語っているかのようでした。

というわけで今回のトークセッションを詳しくチェックしたい方は、ぜひUSTREAMをチェック! 自分はシンプルなモノをつくっている? そもそもシンプルに生きている? エンプティネスって意識したことある? 様々な自問自答が生まれること、請けあいです。

 

会場の様子

イベント概要

opencu.com/events/simple-design

日時:2012年9月18日(火) 19:00-20:30 (18:30開場)
場所:日本デザインセンター POLYLOGUE
出演:原研哉(デザイナー/日本デザインセンター代表)
林信行(ITジャーナリスト/コンサルタント)
川島蓉子(伊藤忠ファッションシステム)
林千晶(株式会社ロフトワーク)
主催:OpenCU
協力:日本デザインセンター、NHK出版

Ustream
www.ustream.tv/recorded/25501502

Twitter
http://togetter.com/li/376344 

 

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