“日常からの発見”を期待する前に、“発見のある日常”を生み出すこと。「フィールドワークする身体」をつくるレポート

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30.Jul.2013

2013年6月27日、7月11日、7月25日の3日間、加藤文俊教授(慶應義塾大学環境情報学部)によるワークショップ、「”フィールドワークする身体”をつくる」が開催されました。講座は、座学、課題(個人&グループ)、チーム発表の3つが盛り込まれた濃厚なプログラム。「楽しすぎます!! 参加してよかった!」と、毎回興奮していた、ロフトワークのコミュニケーション担当・中田一会がレポートをお届けします。

「異人」の練習から始まる、フィールドワーク

「フィールドワークは技法として注目されがちですが、本当に大切なのは観察を習慣化することです。一度や二度、街に出てリサーチをしたぐらいで、革新的アイデアに到達するのは難しいでしょう? 技法ではあるけれど、”身体”にしみこませないとできない、それがフィールドワークなのです」(加藤)

とてつもなく複雑で、猥雑な「現場」(=フィールド)を徹底に深く理解しようとする作業とその方法——と、加藤教授はフィールドワークを定義します。私たちが、当たり前の日常から新しい気付きやアイデア、課題を発見するためには、「いつも通り」ではいけないようです。それを学ぶために与えられた最初の課題は、「定点観測」でした。

*ポイント:定点観測をする時には

  1.  ストレンジャー(異人)の目線を持つ
    いつもより早起きする、いつもと違う道を通る、一駅前で降りる、苦手な雰囲気のと場所に身を置く……自ら「居心地の悪さ」を設計することは、洞察力を上げる第一歩。
  2.  ”私の”○○という愛を持つ
    「駅前」「街」「人々」……十把一絡げの言葉で対象をとらえていても、発見のためのアンテナは研ぎすまされません。そこで大事なのは「私の○○」という意識。”私の”駅前、”私の”街、”私の”おじさん……など、「自分のもの」として見つめると、対象が特別な、ユニークなものに思えて来ます。

講座第一回目では、「私のジャガイモを探す」ゲームをしました。
 意識せずに手にとり、箱に戻したジャガイモを再び見つけることは……難しいですね。
 でも「”私の”ジャガイモ」と意識した瞬間に、それは特別な対象になるのです!

 

ワーク1「定点観測」:公共スペースに60分、とにかく座ってみる。

  • 安全な場所をえらぶ
  • スマホなどで遊ばずじろじろ観察する
  • 気づいたことをメモしておく
  • 写真、スケッチなどでメモをし、その日のうちに日記を書く

居心地の悪い場所に60分……これはなかなか難しいお題です。色々考えた結果、わたしの場合は、平日朝7時半から、渋谷ハチ公前に座ってみることにしました。

人が多くて私はちょっと苦手な渋谷ハチ公前。
60分の定点観察後に自己流でまとめてみたスケッチ60分の定点観察後に自己流でまとめてみたスケッチ。
 不思議な信号待ち、孤独な選挙演説、ピンク看板の知られざる運搬方法……
 60分の間に見た世界はいつもとちょっと違っていました。

参加者同士で宿題を持ちよってみると、「大人が60分間同じ場所にいるのって不自然で、緊張した」「盗撮だと思われそうで、記録が難しかった」「ゲリラ豪雨で中断した」「話しかけられてしまって観察どころじゃなかった」などなど、参加者それぞれ、いろんな苦労があったようです。

私たちは初めての「定点観測」から、観察者になることの難しさを学びました。

 

「概念」と「現象」を行き来して深まる、フィールドワーク

さて、フィールドワークデビューを果たした参加者の面々は、熱が冷めぬうちに次の課題を与えられました。次は、グループで「収集」に挑むワークです。

*ポイント:データ収集は「視点」「視座」「視野」をそろえる

「視点」……着目するポイント。調査者として何を見るのか?
「視座」……誰の立場で考えるか?視座をかえると問題状況に影響があるか?
「視野」……収集する範囲、画角、時間的/空間的単位?

収集ルールを忘れないための「ラボラトリーワーク・ツールキット」

ワーク2「収集」:テーマを決めて、町中の風景を集める

*条件

  • グループごとにテーマを決め、町中の風景を撮影する
  • 「視点」「視座」「視野」の条件をそろえておく
  • Facebookグループなど、オンラインで共有できる場所をつくる

住む場所も、年齢も、生活サイクルも違うメンバーが、共通して集められるテーマを見つけるのは、ちょっと頭を使う作業でした。漠然としすぎるとまとまりがなくなるし、絞り込みすぎると集めづらい。悩んだ結果、私たちのテーマは「威嚇されたと感じるモノ・コト」にしました。

「威嚇を感じる」場面は人それぞれで面白い。
 2週間、Facebookグループ内で70枚の写真を集めてみました。

 

「”私が”威嚇されたと感じた瞬間を大事に」「スマホで縦位置撮影」「ストーリーをみんなに必ず共有」など、いくつかのルールを決めて挑みましたが、進めていくうちに条件設定の大事さが身に沁みて感じられるように……。収集することと同時に、「共有すること」に意識が向いた2週間のグループワークでした。そしていよいよ、最終ワークは、データの分類です!

ワーク3「分類と評価」:収集したデータをどう読み解くか?

*方法

  1. 写真を分類する
  2. 分類軸を考える ※1と2は同時に進める
  3. 選ばれた軸を使って写真を配置する
  4. 写真の”まとまり”に名前をつける
    +α 読み解いたデータか新しい提案を考えてみる

「新しい/古い」「近い/遠い」「意味のある/無意味な」「派手/地味」など、
 分類軸を考えて四象現にまとめてみる作業。苦しみます。

 

さらにそれぞれにラベリングを施してみたりもしました。

 

ついに発表!私たちの分類軸は、
 「見慣れた光景/非日常の光景」「意識的な威嚇/無意識の威嚇」。
 「“威嚇”は受け手が感じた瞬間に発生するもの」なんていう哲学的な考察結果に。

 

他には町中のフォント「つよもじ」を集めたチームなども。
 デザインの生み出す意味や、偶然性を考察する、興味深い発表でした!

 

まとめ。”発見のある日常”は、引き寄せるもの?

現場に出て観察し、発見からアイデアにつなげる…とても魅力的なアプローチ、「フィールドワーク」。ユーザー中心のデザインやサービスが注目を集めている今、「日常」というフィールドはまるで宝の山のように感じられます。

が、しかし!

その宝は、まちなかで「異人になるスイッチ」をオンにできる人の前にしか現れません。「当たり前」をぼーっと受け入れ、鈍感な日々を過ごしていると、”フィールドワークする身体”はどんどんなまっていってしまうのです。だから、これからも、ちょっとした違和感や痕跡、工夫の種を見つけては、そっと収集し、自分なりの整理棚にしまってみる……そんな行為を楽しみつつ、続けていこうと思いました。

最後に。加藤先生が本講座の開催主旨に寄せた、私の大好きな文章を転載してレポートを終わります。本当に楽しい講座でした。先生、参加者の皆さん、ありがとうございました!続編を期待して、待っております。

“毎日の暮らしのなかで行われる「フィールドワーク」は、当たり前となった毎日の生活を、一歩引いた立場から見直す機会をつくります。それを習慣づければ、私たちは、人びとの微細なふるまいにも気づくようになり、じぶんをとりまく環境への関心が高まれば、結局のところ、それはじぶん自身に対する感受性をも開拓することになるはずです。”(開催主旨より)

 

加藤文俊

慶應義塾大学環境情報学部教授

1985年、慶應義塾大学経済学部卒業。1988年、同大学院経済学研究科修士課程修了。1991年、ペンシルヴァニア大学アンネンバーグコミュニケーション研究所修士課程修了、1993年、ラトガース大学大学院コミュニケーション研究科博士課程修了(Ph.D.)。慶應義塾大学環境情報学部助手、龍谷大学国際文化学部助教授などを経て、2001年、慶應義塾大学環境情報学部助教授、2010年より現職。専門分野はコミュニケーション論、メディア論、定性的調査法。主な著作:『ゲーミングシミュレーション』(共著)日科技連、『キャンプ論:あたらしいフィールドワーク』慶應義塾大学出版会ほか。加藤文俊研究室・fklab http://fklab.net

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