機能するチームを作ることは、判断できるチームを作ること
「一番機能しないチームとは、判断できないチームのことです」増井氏はそう断言する。
チームが自ら判断をして動けるということは、チームの個人が的確に判断して能動的に仕事ができることを意味する。
「当然人によって、仕事のスピードなどは違いますが、判断することができれば、とにかく前に進むことができます。そこが重要なんです。もしもチームで判断をするのが私だけだとしたら、私が前に進まなければ、チームはいつまでも止まったままです。それではチームでいる意味がありませんよね。
ここで言う“判断できる”とは、つまり権限を与えるということです。例えば、公開のワークフローでトップのマネージャーが常に承認しないと公開できないというようなものでは、だめということです。何らかの理由でマネージャーが不在のときに、チームが完全に止まってしまいます。それでは“canon.jpが提供すべき価値”の“保証(ユーザーが求める情報をより多くの人に素早く確実に提供できている)”にも逆行してしまいます」
増井氏は適切な権限の委譲を行うために、それぞれのコンテンツのカテゴリごとに通常実務を行なうメイン担当者と、メイン担当者不在時や緊急対応時のためのサブ担当者を配備している。そして、メインあるいはサブの決断によって、ワークフロー上で公開まで進めるようにしているのだという。権限の分散はもちろん、サブがフォローするという互助的な仕組みにもなり、セーフティーネットにもなる。この仕組みは、震災時にも機能したのだという。
工夫その9 適切な権限委譲は、チーム全体の判断力とセーフティーネットを向上させる
権限管理・委譲はもちろん重要だ。しかしそれだけではチームは動かない。どんなチームも一度は直面する、チームメイトのパーソナリティつまり個性の管理である。増井氏はチームメイトの個性を生かすためにどんな工夫をしているのだろう?
「変えられる個性なのか、変えられない個性なのかを見極めることが肝心です。変えられない個性を無理やり変えようとして負荷になる仕事を与えるのは、チーム全体にも悪影響を与えます。その個性で一番フィットする仕事を与えてモチベートする方が効果的です。逆に変えられる個性ならば、担当カテゴリーにあえて変化を加えたりして刺激を与え、モチベートします。ただし、個性が “canon.jpが提供すべき価値” の体系に悪影響を与える場合は是正するようにしています」
では、そもそもの個性はどうやって見極めていくのだろう? チームが大きくなりコミュニケーションチャネルが増えれば増えるほど、ひとりひとりの個性の見極めは難しくなってしまう。
「個性は何か問題が起きたときにこそ分かりますね。うまくいってるときはその人の仕事への取り組み方の個性(本質)がどうかは分からないものですが、たとえばコンテンツオーナー(コンテンツ掲載の依頼部門)と何らかの問題でぶつかって私のところに相談に来たとき、それがよく分かります。よく観察して内緒でログをとって運営の役に立てています(笑)」
人の個性は何かトラブルが起きたときに顕著になる。これを冷静に観察して改善を行うことで、結果としてチームの運営を大きく前進させてくれるわけだ。
工夫その10 個性の観察は、その人がトラブルに直面しているときに冷静に行う
あくまで冷静な増井氏であるが、そのチームビルディングの哲学は、軸となる考えをブラさず貫きチーム全体が同じ方向へ自律的に向くようモチベートし、最大限の効果を発揮することに集約されている。チームは、ひとつの立ち戻るべき価値観を持つことで、強く効率的に機能するということを実践しているのだ。多くの示唆に富んだ増井氏の工夫を、ぜひ自身の業務にフィットした形で実行みてはいかがだろうか。