取材・構成
今回は、拡張現実=ARの第一人者として知られるAR三兄弟の長男・川田十夢さんと、次男の高木伸二さんが登場。拡張現実の“今”を存分に語っていただいた。セカイカメラなど、やや尖った技術の印象があったARは今、スマートフォンの広範な普及にともなって、表現のいちジャンルとして確実に一般市民権を得てきている。ビジネスの領域においても、今後、コンテンツ企画やプロモーションを考えるとき、ARが選択肢に入ってくることも予想される。本特集では、AR三兄弟の魅力から、AR入門、そして最前線までを標榜しよう。(Webエキスパートより転載)
拡張現実で実現した、未来のファッションショー
間取り図にカメラをかざすと、AR空間上にモデルが出現。その部屋でのライフスタイルに関連したテーマでショーが展開される仕組みだ。 「元々のアイデアは、実際に建物を借りきってやる予定だったんです。そこには、例えばバスルームなどいろいろな部屋に服が脱ぎ捨てられている。そして服にセンサーをつけておいて、それらが拾い上げらると、その服が脱がれるまでの生活にヒモづいたファッションショーが、実際の部屋のAR空間上で始まる。これはそのアイデアを紙の間取り図上に移したもので、現場に足を運ばなくても、拡張現実で繰り広げられるファッションショーがいつでも、どこでも楽しめるようにしたものです」と、AR三兄弟の川田さんは話す。 ここで少し拡張現実=AR(オーギュメンテッド・リアリティ)というものについて整理しておこう。SFなどで多用される、仮想現実=VR(ヴァーチャル・リアリティ)とどう違うのだろうか? しばしば混同されがちなこの2つは、リアリティ(現実感)を体感させるという点では同じものだ。しかし、現実を媒介にして情報を配置する拡張現実=ARか、それとも仮想の現実を媒介にして情報を配置する仮想現実=VRかという大きな違いがある。 上の動画では、実際に存在する紙媒体に描かれた間取り図の上で、情報としてのファッションショーが配置されているから、これはARなのだ。実際には存在しないファッションモデルが、カメラをかざすことで、目の前の現実の上に現れる。 「ファッションショーって赤じゅうたんのランウェイに専門家が集まってくる閉鎖的な感じがしてならない。でも、現実の世界のファッションショーって、もう確立してしまった現実だから、そこから進化できないんです。じゃあ、拡張した現実からだったら、変えられるんじゃないか? と思って、部屋を使ってファッションショーをやるという少し新しい概念を、ARからやりたいと思ったんです」と川田さん。 これは何もファッションショーに限ったことではない。メディアも思想も、カルチャーも技術も。もはや入り込む隙も無いほどに閉塞的に成熟している。もはやその現実の上に乗っても、新しいことはできないのかもしれない。 ARは、こんな今だからこそ、もっともクリエイティブな現実なのだ。それは、拡張された現実から、現実そのものを変えてしまう可能性すらも宿している。