取材・構成
株式会社ロフトワーク今、ソーシャルネットワーキングなどを代表するITの世界から仕事の方法論が変革されてきている。須田英之氏はヤマハでIT関係の部署にいるサラリーマン。肩書きでは研究開発センター ネットビジネスグループ主任をつとめる。しかし、ある時は“体験を贈る”を合言葉に、ハングライダーやリフレクソロジー、さらにはスタジオ撮影までの体験を販売するサービスを展開するソウエクスペリエンス株式会社に関わり、またある時は、農業実験レストラン・六本木農園にも関わっている。またまたある時は、バンド『夕食ホット』のメンバーとしてギターでノリノリのライブをこなす傍ら、ステージの傍らに居るときにはカメラを構え、ミュージシャンのオフィシャルカメラマンすらもこなしてしまう。
この人一体、何者なんだ!?
自らの芸を職に、そして職から生き方を創る。その生き方が人を繋ぎ、笑顔を生み出してゆく。彼の人生に大きく関わる音楽とITから、そして須田英之さんの活動をご紹介してみよう。
『ハモラボ』でいつでも、どこでもセッションの楽しみを
須田氏はヤマハで、“音楽を生み出す敷居を下げる”を合言葉に、ヤマハの技術とITで新しいサービスをネット上に生み出す社内ベンチャー的な組織、Y2 PROJECTに携わっている。そこで今リリースに向けて期待が高まっているのが『ハモラボ』という誰でも簡単に使えるオンライン音楽制作サービスである。
『ハモラボ』は6トラックを装備するオンライン上の音楽レコーダーだ。例えばあなたがギタリストだとしよう。サイトにログインしたら、まず手始めに気に入ったボーカルを探す。そしてAさんのボーカルに出会うとする。あなたはそのボーカルに、自分のギター演奏を加えて録音し、公開することができる。

こちらがプレイヤー画面。下部の「さっそく歌う!」をクリックすれば自分のボーカルをレコーディングできる。 シンプルでいて、本格的なDAWの機能を備えていることから、ビギナーからプロまで幅広く楽しめる
ほどなくして、その曲にドラムのBさん、ベースのCさんが現れて、同じように演奏して公開する。
あなたが加わって始めたセッションが、いつの間にか一つの曲を生み出してゆくのだ。『ハモラボ』はこの楽しさを日本中、ゆくゆくは全世界の人々と共有する可能性を持つサービスなのだ。
「楽器や録音機材などに代表されるように、ヤマハは演奏や音楽そのものを作る会社ではくて、演奏や情報を含めた、何らかの発信者がアウトプットをするまでをお手伝いする会社です。その立ち位置から音楽を作る楽しみをネットサービスにしたものが『ハモラボ』なんです」と須田氏。
さらに『ハモラボ』はレコーディングした素材を元に音程を解析してMIDIデータにする機能まで搭載するため、例えばボーカルのピッチを変えて、エフェクトを加え、全く新しいリミックスをすることも可能。元データは残り、全て派生データとして共有される。地球の裏側で自分の声が女性になり、ジャズを歌っていたはずが、ダンスミュージックになって大ブレイクしている、という未来も夢でないのだ。
「最終的なアウトプットはそのままYouTubeで共有できますが、そのような従来の価値観も変えようとしています。つまり、最終的なアウトプットが無いことを楽しめるサービスにしたいのです。おそらく最終的なアウトプットを作りたい人はハモラボは使わないと考えています。音楽が生まれてゆくその日の、その瞬間のアウトプットが最高だと思える、そこに幸せがあるものにしたいんですね。とはいえ、それはリリースしてからの過程でユーザーの声を聞きながら見えてくることだと思っています。今はとにかくリリースが楽しみですね」
意図しない曲の完成形を生み出していく過程をみんなで楽しむこと。まさにセッションの楽しさそのものをネットに持ち込んだのがこの『ハモラボ』だ。