10月から〈メルマガ×リアルイベント〉で構成されるワークショップ「ユーザーに弟子入り!アイデアを生み出すUXリサーチ」がスタートします。講師をつとめる利用品質ラボ代表の樽本徹也氏にワークショップの背景やビジョンを聞きました。
聞き手:西本泰司(株式会社ロフトワーク シニアクリエイティブディレクター)
UXリサーチの習得とそれを共通言語とした人の交流
このワークショップから新しいビジネスが生まれる展開に期待します!
インタビューや観察から、生のユーザーのデータを集めて、分析・発想する「UXリサーチ」を学ぶ!
最初に樽本氏の口から出たこのワークショップの真の目的、つまり、ビジョンとは「人を集め、その集めたメンバー同士がコミュニケーションをとり、そこから新しいコトが生まれる」でした。
「だからこそ、Web系以外の人にも参加してほしいですね。エンジニアやデザイナーはもちろん、アントレプレナーなども大歓迎です。とにかく、いろんなタイプの人に集まってもらいたい。このWorkShopでは違う分野の人たちがコミュニケーションするための〈共通言語〉の一つとして、ユーザーエクスペリエンスリサーチ(UXリサーチ)を学んでもらいたいと思っています。ここで出会い、UXリサーチという共通言語で会話して、さらに、自分たちで何かを始める──たとえば近い将来起業するとか──そんな可能性があると思うんです。そんなきっかけになればうれしいですね。」
──「UXリサーチ」とは、どういうものなのでしょう?
「ユーザーリサーチやデザインリサーチともいわれる分野です。私たちUX専門家の間では普通に使われてきた言葉ですが、それ以外のIT業界の人の多くはその存在さえ知らないかもしれません。今、エリック・リースの書籍『リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』(日経BP社)や、米国のデザインカンパニーIDEO社の“デザイン思考”などが流行っています。これらを表面的に見ると、“ブレインストーミングして、ペーパープロトタイプとかでモックアップを作って、そのモックアップでユーザーテストをして、そのフィードバックをもとに修正する”──そんなふうに見えます。だけど、どうやって(最初の)アイデアを思いつくのか?という部分は、ブラックボックスになっています。実は、彼らは“リサーチ”しているんです。本当の意味でのデザイン思考や、本当の意味でのリーンスタートアップの顧客開発をする場合、いちばん最初にリサーチの段階があるんです」
ここで言うリサーチについて更に解説いただいた。
「ただ、リサーチといってもアンケート調査ではありません。私たちが主に使うのは、いわゆる“エスノグラフィ”に由来する小サンプルの質的調査です。具体的には“インタビュー”や“観察”を行います。そして、そういった調査から得られる雑多で不定型なデータを分析するには質的データ分析法を用います。実は質的調査は質的データ分析法とセットで使わないと意味がないのですが、残念ながらそれらの手法は専門家以外にはあまり知られていません」
プロジェクトが始まる“前段階のリサーチ”にこそ大きな意味がある
──エンジニアやデザイナーにとって、UXリサーチはどんな意味があるのですか?
「僕はもともとユーザビリティエンジニアでした。ユーザーインターフェイスがある程度できた状態の製品のプロトタイプがあって、それを評価して、問題点を明らかにして、そのデザインをいいものにしていく──広義には、これもユーザーリサーチです──のが仕事でした。ところがいくら改善しても良くならないケースが多い。なぜなら、最初のアイデアが間違っているからです。そこで私たちは製品開発の前の工程へとどんどん遡っていきました。そして最終的に到達したのがプロジェクトが始まる”前”の段階です。その段階から関与することで、初めて納得のいく製品を生み出せるようになりました」
「ただ、従来行われてきたユーザーリサーチの仕事は、インタビュー調査をして、インタビューのデータを分析して、調査結果を出すことに偏りがちでした。極端に言えばアウトプットとしてペルソナとかシナリオを作ったら、そこでお終い──開発チームの皆さん後はヨロシク──でした。しかし、現代のリーン/アジャイルな環境では調査結果から具体的なアイデアを生み出さない限り、その調査に価値はありません。チームの目的は”調査”ではなく、製品やサービスの”開発”だからです。」
「小サンプルの質的調査をして、質的データ分析の結果に基づいてアイデアを生み出す。そうした方法は既に確立しています。ところが『リーン・スタートアップ』を読んでも、ユーザーにヒアリングするとは書いてあっても、どうやって調査するかは詳しく書いていないんです。その後のデータ分析や発想法についても書いていない。そこは彼らの専門じゃないから、そこを書けるほど知らなかったのかもしれませんね。そこで、その部分をワークショップにしてみると面白いと思ったんです。いままでブラックボックスになっていた部分を明らかにしようと思っています。そうすれば、たとえばエンジニアやデザイナーが、ユーザーにインタビューして、その調査結果から製品のアイデアを発想をして、モックアップを作ってテストするところまで一気に自分でできるようになります!」
──アントレプレナーなどビジネス系の人にも参加してもらいたいのはなぜですか?
「アイデアは天性のひらめきだと思い込んでる人が多い。その結果、自分の思いついたアイデアにこだわりすぎている人も多い。でもアイデアは調査結果からもっと論理的、効率的に生み出すことができます。UXリサーチの技術を身につければ、製品の基本的なコンセプトや、ITビジネスを起業するときのビジネスコンセプトを、ユーザー視点からもっと簡単につくり出すことができます。だからこそ、アントレプレナー、エンジニア、デザイナーの3者に“共通言語”としてUXリサーチを習得してほしいのです。そうして〈ビジネス〉と〈技術〉と〈デザイン〉という3つの要素が組み合わさることでイノベーションが生まれます。」
「欧米では教育がそうなっていますよね。たとえば昨年NHKで放映された『スタンフォード白熱教室』を見ても、コンピュータサイエンスや経営学や芸術など様々な専攻分野の学生が参加(学校側が意図的に多様性を構成している)していました。異なるバックグラウンドを持った人たちが集まって何かを始める土壌があります。日本はそういう教育システムになっていないから、社会に出てから自分の力でそれをやらないといけないんですね。そこで、今回のOpenCUのWorkShopを異分野コミュニケーションの場としても活用したいなと思っています。僕はエンジニアとUXの両方に人的ネットワークを持っていますが、さらにビジネス系の人たちにもどんどん参加してもらって、ここでもっと深くお互いを知り合ってもらいたい。そして、自分と異なるスキルを持った気の合う仲間を見つけてほしいですね。」
ワークショップ開催のご案内
ユーザーに弟子入り!──アイデアを生み出すUXリサーチ
製品やサービスを考える際に必要となるアイデアをユーザー調査から発想するワークショップ「UXリサーチ」を開催します。まずは無料メルマガにご登録ください。詳細・開催日程はメルマガを通じて随時お知らせします。
- 2012年10月〜12月開催
- 小サンプルの質的調査をして、質的データ分析の結果に基づいて素早くアイデアを生み出す――リーン/アジャイルな時代に適した「UXリサーチ」の基礎を習得できるワークショップです。
- Skypeを使った無料オンライン・レクチャーを隔週開催(1回1時間)
- ※希望多数の場合は抽選。後日、録画版の再放送有り。
- ※レクチャー開催の詳細はメルマガにてお知らせします。
- ワークショップイベントを月1回程度実施(有料:各2,000円〜、開催地:渋谷・道玄坂Loftwork Labを予定)
- 詳細は、ワークショップトップページ「ユーザーに弟子入り!アイデアを生み出すUXリサーチ」の「Learn More」からご確認ください。
- 参加は以下の「ワークショップの申し込み」から無料にて参加できます。