去る2013年5月21日、「モノづくりとソーシャルデザイン~グッドサイクルが描く未来」が開催されました。登場したのは、2013年4月に書籍『マイクロモノづくりはじめよう ~「やりたい! 」をビジネスにする産業論~』を発表し、「マイクロモノづくり」を通じた町工場支援の取り組みを行う株式会社enmonoの三木康司さんと宇都宮茂さん、プロブロガーとして活躍する傍ら、NPO向けにソーシャルメディアコンサルティングを無償で行うイケダハヤトさん、そして『僕らの時代のライフデザイン 自分でつくる自由でしなやかな働き方・暮らし方』の著者で『マイクロモノづくりはじめよう』のプロデュースも手がけた現代編集者の米田智彦さん。「これからのモノづくり」をめぐるトークセッションとワークショップが行われたイベント当日の模様をレポートします。
text:吉原徹
Presentation01:
株式会社enmono三木康司さん
ポスト大量生産・大量消費時代の新しいモノづくり手法!?
「マイクロモノづくり」って何?
20名を超える参加者が訪れた「モノづくりとソーシャルデザイン~グッドサイクルが描く未来」。イベント前半のトークセッションで一番手に登壇したのが、株式会社enmonoの三木康司さんでした。
「enmonoは、その名の通り、人のご縁でモノづくりをする会社。自社で設備などは持っていないのですが、日本全国の町工場さんと一緒になって、モノづくりを行っている会社です」
中小企業向けの自社製品開発コンサルティングや次世代経営者育成事業、クラウドファンド掲載支援事業、クラウドファンド運営事業などを通じて町工場の脱・下請け化を支援する株式会社enmono。もともと大企業に勤めていた三木さんと共同創業者の宇都宮さんが同社を立ち上げたのは、モノづくりの現場に、かつてあったはずの“面白さ”を取り戻したいから。だから同社の経営理念は「ワクワクモノづくりで世界を元気にする!」なのだと言います。
さて、ではどんな変化が訪れれば、モノづくりの現場は面白くなるのか。
三木さんは「無料のCADソフトや3Dプリンター、レーザーカッターなどが支えるメーカーズムーブメントが日本の中小企業にも刺激を与えている」と現状を分析した上で、「全日本製造業コマ大戦」の例などを挙げながら「これからはマイクロモノづくりの時代」だと続けます。
「『マイクロモノづくり』とは、わかりやすく言うと中小製造業が自社製品を企画し、製造し、販売する考え方です。つまり、彼らが下請けではなく小さなメーカーになるということですね」
これまでの時代のモノづくり経済は“どこの誰もが絶対に欲しいと思う”モノを大量に生産し、大量に消費する仕組みでなりたっていました。それに対して、一定以上にモノが溢れたこれからの時代には“どこかの誰かが絶対にほしいと思う”モノを少量生産し、少量消費するスタイルが、ひとつの流れになる。そして、モノづくりの多様化が進む時代だからこそ、独自の技術を持った小さな町工場にも大きな可能性が広がると三木さんは言います。
「もちろん、これまで下請けを中心に事業を行っていた中小製造業がメーカーになるためには、いろいろなリソースが必要です。デザイン、マーケティング、研究開発、財務の知識、販路の開拓……。しかし、これらのリソース不足は新しいツールを使うことによって解決できる可能性があるのです」と三木さんは続けます。
ここで言う新しいツールとは、クラウドファウンディングのこと。三木さんによると、「企画」→「デザイン・試作」→「資金調達(クラウドファンディング)」→「量産」→「販売」という流れが「マイクロモノづくり」の進め方。そして「マイクロモノづくり」の特徴は、以下の通りだと言います。
- 少量生産
- 高付加価値/高利潤
- 自社企画/デザイン/設計/生産
- リーン・プロダクトアウト
- 「作り手」と「モノ」の関係が1対1
- ワクワク感
- ソーシャルメディア/クラウドファンディング
- ダイレクトマーケティング/自社販売
「クラウドファンディングのメリットは、資金調達だけではありません。ユーザーや顧客を同時に獲得できるのはもちろん、場合によっては販路まで開拓できるケースもあります。もちろん、クラウドファンディングで評価されるためには“これ面白いね、これ欲しいね”と思ってもらえることが必要。だからこそ、本人がいかに“ワクワク”して作っているのかが、直接商品の価値に結びつくのです」
ワクワクしながら自社製品開発を続けていくことが「マイクロモノづくり」における重要なファクターになる。三木さんは、精密なスプリングの生産を手がける町工場が自社開発した金属バネを使ったブロックトイ「Splink」や、ひとり家電メーカーの八木啓太さんが開発しレッドドットデザインアワードなども受賞した「STROKE」、CAMPFIREで資金調達や販路開拓を成功させ、その後ヒット商品となったヌンチャク系iPhoneカバー「iPhone Trick Cover」などの実例を交え「ワクワクとは何か」を紹介していきます。
また、同社が5月28日にスタートしたモノづくり特化型クラウドファンドサイト「Zenmono」についても説明しました。
「今話題のメーカーズムーブメントとマイクロモノづくりの違いは何か。まず、メーカーズは、生産数が数万個単位の人たちが多く、国内よりも海外生産が中心のように思います。それに対して、マイクロモノづくりは国内の企業や個人で、数百から3,000個が中心です。そもそもマイクロモノづくりの目的は、生産数を上げることではなく、既存の従業員の雇用を確保し、事業を継続していくことにあるのです」
さらに、三木さんはこう続けます。
「モノづくりと言うとハードルが高いイメージがあるけれど、決して特別な能力を持った人だけのものではありません。モノづくりは、自分のやりたいこと、ワクワクすることに気づいた人のものなのです」
Presentation02:
プロブロガー イケダハヤトさん
実は作りたいモノってあまりない!?
社会課題解決型という新たな視点
続いてのプレゼンテーションは、プロブロガーとして活躍するイケダハヤトさん。月間25万~30万人のユーザーを抱えるメディア「ihayato.書店」で執筆活動を続ける傍ら、ビッグイシューオンラインの編集やNPOのソーシャルメディア活用支援を行う「テントセン」を運営するなど、社会課題にも積極的にコミットするイケダさんは、まず現在のメーカーズムーブメントを独自の視点で分析しました。
「みなさんメーカーズのことはご存じだと思います。もちろん3Dプリンターのことも。ただ、こうしたメムーブメントの背景で“では、3Dプリンターを何に使うのか”は、なかなか難しい問題です。個人ユースレベルでは、使い道がないのでは?と思う方も多いと思いますし、僕自身、もしも自宅に3Dプリンターがあったとしても、毎日作るモノってそんなにないと思うんです。だから僕は、個人的なモノづくりという観点でメーカーズ的な事象をとらえてしまうと、ちょっと本質からずれてしまうと思います。それよりも、“コミュニティの課題を解決するツール”としての可能性があるのではないかと」
メーカーズ的モノづくりが、コミュニティの課題を解決する。その例として、イケダさんは最初に、アフガニスタンのFabLabで生まれた「FabFi」にふれました。
「恐らくレーザーカッターか何かを使ってWi-Fiのアンテナを作った事例で、もちろん設計図なども公開されています。そもそものはじまりは、アフガニスタンのフリーのWi-Fiが飛んでいない地域に住むひとりが“こういうモノがあったらいいな”と思ってアンテナを作ったこと。それを見た周りのコミュニティの人も“それいいな。うちにも作ってよ”となり、次第に広がって行った公開プロジェクトなんです。まさに、コミュニティの課題をモノづくりで解決したわかりやすい例だと思います」
イケダさんは「fabFi」のほかにも、手早く水質調査を行い、さらにその結果をグーグルマップに送信できるデバイス「ウォーターカナリア」や、塩分を含んだ水から淡水を作り出すソーラー型淡水製造器の「ウォーターコーン」など、環境や貧困など世界が抱えるさまざまな課題の解決につながるモノづくりの事例を紹介していきます。
「こうしたプロジェクトでは、まだオープンソースになっていないものも多いです。ただし、メーカーズムーブメントが広がることによって、途上国でも簡単にモノづくりができる仕組みが整ってくると、世界が少し変わってくるかもしれません。僕は、社会的な課題の解決とモノづくりの相性はすごくいいと思っています。冒頭にも言いましたが、個人ユース視点でメーカーズムーブメントを捉えるのではなく、社会課題を解決するという視点でモノづくりを考えて見れば、新しい視座が開けるのではないでしょうか」
Presentation03:
現代編集者 米田智彦さん
計画変更も偶然も
許容するライフデザインとは
トークセッション最後の登壇者は、株式会社enmonoの書籍『マイクロモノづくりをはじめよう』をプロデュースした編集者の米田智彦さんです。米田さんは、はじめに自身のこれまでの足跡を紹介しました。雑誌編集の仕事のこと、米田さんが手がけるウェブマガジン『TOKYO SOURCE』のこと、2009年にUSTREAM関連の書籍を制作するなかで感じた「Share」という概念の可能性、そして2011年から1年間にわたる生活実験として行った「NOMAD TOKYO」の活動などについて、実体験を交えながら話します。
「こんなことを続けているうちに、自分の人生や自分の仕事を、自分自身でつくり出している人がたくさん、しかも同時多発的にいることに気づきました。そして、もうひとつ気づいたのが、自分自身の人生や仕事をデザインする視点があるということでした」
自分自身の人生をデザインする。それはある意味で、モノづくりの原点といえるのかもしれません。
「人生をデザインすることは、長期のプランを思い描くことではなく、とりあえず実際に書いてみたり、描いてみたり、具現化してみたり、行動してみること。いわゆるデザイン思考を、人生にインストールすることです。可能性やモヤモヤの中に身を置いて、仮説して、小さく試していく。アジャイルやリーンスタートアップ、ピボットという言葉がIT業界ではよく使われていますが、僕は“計画変更や偶然の出会いを前提とした計画を、生活や人生、仕事に取り入れる”マインドセットを、ライフデザインと呼んでいます」
そして米田さんは、こんな言葉でプレゼンテーションを締めくくりました。
「いつでも始めるのに遅いと言うことはないし、自分がひらめいた時に始めればいい。意思と選択、主体性を取り戻そう、というのが僕からのメッセージです」
考えてみよう!モノづくり×ソーシャルデザイン〜WORKセッション
後半はワークショップ!
ちょいワル発明と怠惰のススメ?
トークセッション終了後は、参加者たちが実際に頭と手を動かすワークの時間。20名ほどの参加者は各4~5名のグループに分かれ、「身の回りにある社会課題を、モノづくりの視点で解決するアイデア」を考えることになりました。
まずは一人ひとりがアイデアを考え、チーム内で発表。さらにチームでひとつのアイデアを選択し、それをみんなの前でプレゼンする流れで進んだワークショップ。
各チームから出てきたアイデアは
「どこでも寄り道できるタープ」
「道に迷わないAR的双眼鏡」
「コミュニケーションのきっかけをつくるプロフィール表示型ARアプリ」
「マンションの駐輪スペースを有効活用するための超コンパクト折りたたみ自転車」
「片付けが苦手な人向けの家具の位置決めシール」
など、
実に多彩。そのいずれもが壮大な社会課題よりも、身の回りの気になるコトを解決すべく考えられたアイデアでした。各チームのプレゼンを見守ったゲストからはこんな総評が届けられました。
「僕自身コミュニケーションが苦手なので、すごくプロフィールを表示するARアプリはとても興味深いですね。たとえば今、鯖江がメガネにテクノロジーで付加価値を付けたメガネのコンペをやっています。コミュ障向けのARメガネを提案しても面白いのではないでしょうか」(イケダハヤトさん)
「趣味だったり、中2的な思考だったり、エロだったり……。イヤなことを解決するために、好きなことをぶち込んだアイデアは、ワクワクしますよね。やっぱり、自分の不得意なことを乗り越えなければいけない時には、悪知恵が働くものだと思います。モノづくりには、“ちょいワル発明”が欠かせないのかもしれませんね」(米田智彦さん)
「たとえば片付けが出来ない人向けのアイデアは、片付けができる人には思い浮かびません。欠点のない人には、良いアイデアは発想できないし、苦手だからこそ出てくるアイデアがあるのではないでしょうか。だから、怠惰が未来を拓く。みなさん、怠惰になりましょう(笑)」(株式会社enmono宇都宮茂さん)
町工場発の新しいモノづくりのカタチ「マイクロモノづくり」や、コミュニティの課題を解決する世界のモノづくり事情、そして自分自身の人生そのものをデザインするという「ライフデザイン」の考え方……など。さまざまな視点からモノづくりの可能性を模索した今回のイベント。その模様はUSTREAM(下掲載)にもアップされているので、気になる方はぜひチェックを!
❏ イベント概要
日 時 :2013年5月21日 19:00-21:00
場 所 :loftwork Lab 10F(渋谷区・道玄坂)
定 員 :60名 ※最大定員
プログラム:
・活動紹介や事例紹介
・トークセッション
三木康司、宇都宮茂、イケダハヤト、米田智彦
・ライトワークショップ
『ものづくりをテーマに考えてみる(仮)』
❏ USTREAMアーカイブ
❏ イベントの写真