役職の管理体制は、常に全体最適化の観点から
前出の“機会、保証、共感”によって形作られる価値体系がキヤノンのコミュニケーションの本質だとするならば、Webサイトだけでなく、マス広告やリアルのイベントに関しても同じ働きをするよう意識する。言い換えれば、さまざまな媒体を横断してユーザーコミュニケーションを創出できる状態にある。
とはいえ、全員が媒体を横断しての価値を同じ立場で考えることは難しいため、キヤノンマーケティングジャパンでは、Webチームの中に3つ職種を設けことで価値提供が実践される組織作りをしているのだという。
3つの役職と3つの価値により提供するもの
システムマスター
機会:インフラ系の整備。保証:いかに止まらないインフラを作るか、そしてスムーズにコンテンツを更新・公開できる環境を作ること。共感:キヤノンサイトは停まらないというユーザーからの共感(信頼)を得ること。
コンテンツマスター
機会:コンテンツのアクセシビリティの確保。保証:誰にでも分かるナビゲーションを用意するなど、高いユーザビリティを保証すること。共感:キヤノンらしさを感じていただき、キヤノンファンであることの喜びや満足感などの共感をユーザーから得ること。
コミュニケーションマスター
機会:ユーザーが企業とコミュニケーションできる機会を提供。保証:ユーザーからのコミュニケーションリクエストに、迅速かつ真摯な返信をすること。共感:キヤノンはユーザーの声に耳を傾け、大切にしてくれるというユーザーからの共感を得ること。
ここでは、 “Webサイトを作るため“の作業に添った役職でなく、”キヤノンの価値を提供する“というコミュニケーションのプランナーとして定義されていることがポイントだ。そのため、業務が多様化したとしても、全体の統一感が失われることはない。
「例えば、ソーシャル・メディアを活用したい!という要望が入ってきても、“機会、保証、共感”により提供すべき価値を整理できるわけです。チーム作りの最初の段階で汎用性のある価値体系を設定できたので、この3つのままでずっときているんです」と増井氏。チームメンバーの職務の管理において大切なのは、それぞれの職務を貫くチーム全体としての1本の柱をもつことにありそうだ。
増井氏はSEとしてのキャリアも豊富に持っている。そのため、「概ね、システムを考えるときと同じ思考で組織を捉えています」とのこと。統一感のある組織運営や、自己矛盾しない論理体系も、当時に培った“システムエンジニア的な思考”によってもたらされている。
また、チーム内での意識の徹底として、増井氏は上記の指針を1枚のドキュメントにまとめ、新しい人材へオリエンテーションを行うという。一貫したコンセプトを持った組織運営をしていると、新しく人材が入ってきたときも、なじむのが早いというメリットも見逃せないだろう。自分の仕事が会社の何に貢献するのかが共通認識化されているため、個人が提供すべき価値を考えることだけに集中できるのである。

canon.jpのポジションを示スライド(オリエンに使用される資料から抜粋) 3つの価値と共に現在のサイトのフェーズを指しており、共通認識を持ってもらうことを目的に用意されている。
工夫その3 職務の前提条件を統一しておくことで、統一感と応用性の高い役職管理が可能となる