取材・構成
OpenCU編集部急成長したベンチャー企業がメディアで取り上げられるたび、その企業が持つ“アイデア発想法”が話題になる。もしあなたがポジティブなビジネスパーソン、あるいはクリエイターであるならば、アイデアを生み出す方法というのは常に知って、試したいトピックに違いない。
今回ご紹介するのは、“グラフィック・ファシリテーション”という、ファシリテーションの新しい手法を使い、様々な組織で“コミュニケーションプロセスデザイナー”として活躍する井口奈保さん。アメリカ生まれの本手法はファシリテーションに、グラフィック、つまりドローイングによるビジュアライズを採り入れたものである。
グラフィックファシリテーションの面白さは、何よりも普段の退屈な会議やミーティングが楽しく実りのあるものになること、そして基礎さえ学べばすぐにでも実践できるテクニックである。本インタビューをきっかけに、アイデア力を手にしたい人は、ぜひ試してもらいたい。
インタビュー:佐藤佑花(株式会社ロフトワークディレクター)
リアルタイムの航海地図で導く、ベストアイデアへの最短距離
グラフィックファシリテーションとは何か。まずはその全体像を掴んでみよう。
例えばあなたの会社のミーティングにグラフィックファシリテーターが参加したとしよう。席に着くと、壁に何やら大きな紙が貼ってある。ミーティングが始まり、自己紹介を終えるとグラフィックファシリテーターは机の上で繰り広げられる議題をリアルタイムでビジュアル化して壁の紙の上に展開してゆく…。
グラフィックファシリテーションの一番の特徴は、ミーティングやブレストをグラフィックを使ってライブレコーディングすることだ。
しかも、ただ描き写しているだけではない。次々と発言されることを、箇条書きだったり、何か系統図だったり、最適なまとめ方で整理されてゆく。それを見ているだけで、「なるほどそういうことか」と、普段では見えてこなかった、“考えなければならないこと”が自然と整理されていく。さらには“必要なアイデアが何か”が分かってくる、そして“自分たちが今何を目指して議論しているか”を共有できるようになる。
結果、話が堂々巡りせず、いつもより早くミーティング終わる。おまけにミーティングに参加できなかったメンバーには、壁の紙に書かれたものをスマートフォンで撮影して共有するだけ。議事録をまとめ直す必要もない。
そして、“ファシリテーター”というのは、いわゆる“進行役”のこと。ミーティングを航海に例えるなら、航海士に当たる。
「まず、人間は会話の最中には30秒前のことを覚えていません。脳はそうできていないのですね。ミーティングでもブレストでも何でも、会話というのは即興的なもの。あらかじめ整理されたものを話しているのではなく、話すことによって整理していくプロセスなんです。
ミーティングでは、何らかの結論を出さなければならないというゴールは決まっているわけです。グラフィックファシリテーターの仕事は、そのゴールとは何か?自分たちは今何を生み出そうとしているか?または生まれようとしているか?を、グラフィックで表現して参加者にフィードバックしゴールへ導いてゆくことなんです」
大きな紙さえあれば始められる、グラフィックファシリテーション
そんな便利なグラフィックファシリテーション、さて気軽に真似をして身につくものなのだろうか?
「もちろんこの手法はアメリカで確立されたコミュニケーションデザインのひとつなので、体系的に背後にある理論の学習や技術的トレーニングを受ける必要があります。しかし、知識ももちろんですが、グラフィックファシリテーションは感覚を身につけることが重要です。その場で展開される議題をヒアリングし、描き、ゴールへ導くのはいくら知識があっても経験から獲得する感覚が大事です。
実は、日常からそれをトレーニングできる場が“会社”なんです。会議がマンネリ化しているのはどこでも同じことですし、こうした新しい手法を試すことは、最初のうち、完成度が低くとも必ず興味深く思ってもらえるはずです。まずは日常の小さなミーティングやブレストで、気軽に試してみるといいでしょう」
井口さんはフリーランスとして働きながら、様々な組織とやりとりしているプロフェッショナル。その真似をすることは途方もなく難しいが、毎日顔を合わせているプロジェクトメンバーの間で試してみるには面白そうだ。
まずどんなことから始めればいいのだろうか? ポイントは3つ教えてもらった。
「グラフィックファシリテーションは巨大な紙を使うのが特徴です。厳密にはホワイトボードはNGです(*1)。私は一番小さくても縦幅80センチ、一番大きいものになると、120センチもある巨大な紙を壁いっぱいに貼ってやります。やはり紙の大きさが想像力を決めるんですね。紙の中でアイデアを考えるわけですから、紙が小さいと、当然出てくるアイデアも少なく、小さいものになります。なので、大きければ大きいほどいいんです。とはいえ、わざわざ買うとなると少しハードルが上がるので、まずはA3などの大きな紙をたくさんつなげて、80センチ×壁いっぱいに貼るといいですね。実は、紙を用意することでグラフィックファシリテーションの30%をやったのと同じことです。それだけ、紙の大きさがイマジネーションのサイズを左右するんです」(*1 編注:最近では壁自体がホワイトボードになっている場合、紙の用意は不要になる)
魚を大きな水槽に入れると、大きく育つのと同じ原理。それにこれだけ大きな紙がいきなり登場するだけでワクワクすることは想像付きそうだ。