なぜ、「グラフィックファシリテーション」が必要とされるのか? 〜コミュニケーションプロセスデザイナー 井口奈保

なぜ、「グラフィックファシリテーション」が必要とされるのか? コミュニケーションプロセスデザイナー 井口奈保

25.Jul.2012

きれいに描くのではなく、情報を上手くレイアウトするのがコツ

さて、紙を用意したところで、次はいよいよ描いていく段階に入る。

「名前がグラフィックファシリテーションと言うからには、絵を描くのかと思われがちですが、文字だけでも問題ありません。どちらかと言うと、絵は分かりやすくするためのオプションだと考えます。さらに当初は発言を書き写すだけで精一杯になります。まずは文字だけでOKです。重要なことや、多くの人が賛成した意見などは太字、サイズも大きく書き、関連事項は小さなサイズで書くなど、フォントとカラーを使い分けましょう。このとき、普段使っているWordの強調表現を上手く活かすと分かりやすいです。つまり、最も重要なことは赤の太字、参照事項は青の斜体を、地の文は黒の細字でという表現ですね。こうすることで、共通理解のあるフォントの使い方が可能になります。私も実践しています」

まとめの手法としてリストが基本中の基本

グラフィックファシリテーションで何よりも画期的なのはそのレイアウト。ぱっと見て一目瞭然、そしてそれが新しいアイデアを生み出す創造性を備えていることが必要とされる。

「基本的なレイアウトパターンが7つあります。グラフィックファシリテーターは状況に応じてそれらを使い分け、最適なレイアウトを構築していきます。そう聞くと大変ですが、まずは“リスト”パターンだけを覚えれば大丈夫です。いわゆる箇条書きですね。関連するキーワード・発言を束ねて、左から右に行くにつれて結論に導いていく。いちばん汎用性があるレイアウトです。これを最初に極めるのが、いわゆる料理人の包丁さばきの練習みたいなものなのです」

以下がリストのレイアウトパターン。上位概念と下位概念が整理され、左から右へと展開していくのがポイントだ。

福岡で開催された国際知識経済都市会議でのグラフィックファシリテーションのシート

福岡で開催された国際知識経済都市会議でのグラフィックファシリテーション

できるだけ、早く発言を書き取り誰でも分かるように簡略化する

最初は“リスト”で、できるだけ早く発言を書き取ることに徹底します。そして、みんなが分かるように整理しようと自分なりに心がけてみるといいでしょう。そうして少しずつ、しっかり全ての人が言っていることを理解し、誰にでも分かるようなきれいな言葉で簡略化し、自分の解釈は入れずに概要を書く能力を身につけることができれば、それは立派なグラフィックファシリテーションです。それができれば、場の人たちがグラフィックの力を使って創造性を発揮したり、議論をゴールに導いてゆく“追い風”を感じられるようになるでしょう。そうそう、まずみんなの前でやるのが恥ずかしければ、自分のノートから始めてみるのもいい練習になります」

グラフィックファシリテーションは、全ての発想・アイデアをまとめるメソッドに応用できる。井口さんは小さなミーティングなら、ノートでまとめ上げ、終わればメンバーはそのノートをスマートフォンで撮影して持ち帰るという。

井口奈保

コミュニケーション・プロセス・デザイナー

慶応大学にて人間科学を専攻。心理学を始めとした学際的なアプローチで人間と文化の関係性を学ぶ。卒業後、単身渡米し、California School of Professional Psychology にて組織心理学修士を取得。組織変革、多文化コミュニケーションの技術、ダイバーシティ・マネージメント、コーチングなどの実践力を培いながら、日米組織行動比較、グローバルリーダーシップ論、日本におけるリーダーシップとメンタリティなどの研究を行う。同時に、Grove Consultants Internationalにて、グラフィック・ファシリテーションを用いた組織変革コンサルティングの手法を学ぶ。
 

帰国後、「コミュニケーション・プロセス・デザイナー」として活動開始。人間の社会的活動の最小単位はコミュニケーションと定義付け、コミュニケーションのコンテンツではなく「プロセス」に着眼。領域は、組織構造デザイン、組織文化構築、チームビルディング、 コミュニティ育成 、プロジェクトファシリテーション、ユースリーダーシップ開発、グローバルコミュニケーション、ワークショップデザイン、プレゼンテーションコーチング、通訳など多岐に渡る。クライアントは外資系企業、日系企業、ベンチャー、社会起業家、NPO、大学、省庁、個人など幅広い。
 

2013年ベルリンに移住。自らの生活すべてをプロトタイプとし、生き方そのものをアート作品にする社会彫刻家。傍ら、ヨーロッパの中心ベルリンが誇る自由とクリエイティビティに満ちた文化を、日本やアジア諸国と繋げ新たなる化学反応を生むべく、多岐に渡る企画のキュレーションに従事。現在は “More Japan in Berlin”をテーマにしたアーバンコミュニティデザインプロジェクト「NION Japan Town Berlin」のパートナーとして活動中。http://nion.berlin/
 

ベルリンのグラフィック・ファシリテーター・コミュニティ「vizthink Berlin 」発起人の1人としてドイツのネットワークを構築中。 Grove Consultants Internationalにてグラフィック・ファシリテーションの訓練を受けてから実践歴10年となる。
 

公式ページ:踊るシコウ

 

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佐藤佑花

株式会社ロフトワーク クリエイティブ・ディレクター

法政大学卒業後、大手自動車メーカー系専門商社にて海外営業に3年間従事したのち、2010年ロフトワーク入社。イラストコンテンツ制作を中心にディレクション経験を積み、近年ではECサイトのコンテンツ運用やアート関連の中規模サイト構築など、幅広く活躍の場を広げている。思いやりの心を大切に、ユーザーの気持ちに届く、ハートウォーミングなクリエイティブをを心がけて邁進中!

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