若山: はんだづけカフェでは、機材が置いてあるだけで、こちらからは本当に何もしません。何をするかは、お客さんの自由。むしろ手ぶらで来られると何もできません。会社の方針で、何かひとつのものが作れるという環境はあまり好きじゃないんです。なので、秋葉原という場所柄もあり、ガンプラを買って来て作り続ける人や、テクノ手芸の商品を買って来て一日中縫い物をしている人もいます。ただ、こちらが何もしないが故に、常連さんがコミュニティを作ってくれるというメリットはありますね。お客さん同士が教え合うことで、ものづくりに詳しい人とその周りに群がる人が繋がるきっかけになる。そういう空間であるとわかっている人が常連として残ってくれているので、お客さんが自分の立ち位置を見つけて自発的に周囲に働きかけてくれるという、素晴らしい空間に育っています。
小室: まさにお客さんがコンテンツになっているというか。
吉弘: 「何もしない」ことを徹底していたからですよね。
若山: 機材に関しても、お金を取っての時間貸しのようなことをしていないので、メーカーさんが「じゃあ、うちのすごいのも置いといてよ」と無償で提供してくれるんです。その後も「どのくらい使われていますか?」「消耗品、足りていますか?」「ついでに掃除しておきますね」とメンテナンスまでしてくれるので、とても助かってます。
吉弘: コミュニティとしてはすごく理想的。でも、それはスイッチサイエンスという会社が通販事業で利益を上げているからこそ、できることですよね。ガジェットカフェではイベント運営だけでは食べていけない現実があるので、電子工作コンテストの企画・宣伝・運営を請け負って、ひとつの収入源にしています。応募作品の中には、圧倒的な技術力だけど、これを優勝させていいの?!とジャッジに困るような危険な香りの漂う“技術の無駄遣い”的な作品もあったですけど(笑) 技術だけじゃなく、見た目やアイデアを含めて評価することで、「ロボコン」のような次世代のものづくりクリエイターの登竜門になるコンテストを目指しています。
吉弘: FabCafeって、新しいライフスタイルの提案をしているんじゃないかなと思っていて。ひとつ聞いてみたいのが、「そういうカフェが将来的にいっぱい増えればハッピーだよね」という感じなんですか?レーザーカッターのある生活を届けたいのであれば、カフェにある必要性ってないですよね。あえてカフェの中に置いているのはストレートじゃない。
岩岡: 特にレーザーカッター縛りがあるわけではないんです。木とか紙とかアクリルとか、カラフルでいろんなマテリアルを使用できる自由度が高いという理由からレーザーカッターを最初の工作マシンに選択しただけで、他の選択肢が今後出て来ても良いと思っています。カフェにした理由は、すでに形成されていて入りづらい空間にしたくなかったから。それはそれで濃いコミュニティになると思いますけど、ぼくらはできれば流動性の高い場所を作りたかったんです。「レーザーカッターで何かを作りたくて図面を持って来たけど、FabCafeに来て他の人の作品を見たらもっと違う形にしたくなった」というような、自分のクリエイティビティが一段上がる場所にしたいですね。
小室: はんだづけカフェは初めて来る人にとってはハードルが高いと思うし、女の子がひとりで来るにはなかなか勇気がいると思います。そういう意味では、FabCafeは間口が広くて良いですよね。
吉弘: レーザーカッターをまったく知らずに来ても、何かおもしろそうなものに出会えるっていうのは、すごく良い。
岩岡: 何も知らずにお茶をしに来たお客さんでも楽しんでもらえるように、その場でちょっとカスタマイズするだけで作れるようなキットも販売しています。完成品を買ってもらうのではなく、パーソナライズできる要素を必ず入れているので、コアなものづくりへ誘うエントランスになれれば良いですね。
若山: はんだづけカフェでも、親子で参加できるような初心者向けのイベントは特に人気を集めています。いろんな角度から、ものづくりに興味を持つ人が増えているという実感はありますよね。知識のない人でも扱いやすい便利な部品もどんどん出て来ているので、気軽にものづくりに参加してもらいたいです。
ものづくりは黙々と孤独に技術を磨くフェーズから、人との出会いを通じたマッシュアップによってクリエイティビティを高めるフェーズへと、着実に進化を遂げているようだ。最後には「3つのカフェが連携して、お客さんが行き来するようになると良いですね」と店長同士は意気投合。初心者への門戸は大きく開かれているので、まだ未体験の方もぜひ一度足を運んでみてはいかがだろうか。
文:野本 纏花(フリーライター/Facebook)
OpenCUでものづくりカフェの集合イベントを開催!
イベント詳細:https://www.opencu.com/events/monodukuri
USTアーカイブ:http://www.ustream.tv/recorded/22914628
ガジェットカフェ、ハンダ付けカフェ、FabCafeが集合。
“ものづくりシーン”の今を大いに語ります!
■イベント概要
日時:2012年5月28日(月)19:00-21:00(18:30開場)
場所:Fabcafe(渋谷・道玄坂)
出演:株式会社エンカフェ 吉弘辰明氏
株式会社スイッチサイエンス 岩山雅弘氏、小室真紀氏
ものづくり系女子 神田沙織氏
TechWave副編集長 本田正浩氏
Fabcafe Fabマスター 岩岡孝太郎
主催:OpenCU
協力:TechWave




岩岡孝太郎
Fabマスター
FabCafe LLP プロデューサー。1984年東京都生まれ。千葉大学卒業後、建築設計事務所に入社し個人住宅や集合住宅の設計を担当。その後、慶應義塾大学大学院に進学しデジタルものづくりの研究制作に従事。2011年、クリエイティブな制作環境とカフェをひとつにする”FabCafe(ファブカフェ)”構想を持って株式会社ロフトワークに入社。2012年3月に東京渋谷にオープンしたデジタルものづくりカフェ「FabCafe Tokyo」のディレクターを勤め、台北・バルセロナ・バンコクなど世界に拡大する「FabCafe Global」コミュニティと共にプロジェクトを行なう。2015年4月「株式会社 飛騨の森でクマは踊る」設立メンバー。2011年-2013年 東京芸術大学AMC非常勤講師。参加展覧会に、可能世界空間論(2010年 ICC)、マテリアライジング展(2013年 東京藝術大学美術館陳列館)など。http://fabcafe.com/tokyo/