日常と非日常のシームレス、旅するように生きる。 TABI LABOトークセッションレポート

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25.Aug.2014

去る2014年7月16日に、 世界とつながるネクストマガジンTABI LABO(http://tabi-labo.com)とコラボイベントを開催。「新しい旅を定義する」をテーマに、TABI LABO共同代表の成瀬勇輝さん、久志尚太郎さん、そして同メディアの共同編集長である、佐々木俊尚さん、さらに、年間の1/4を国内外への旅に費やすロフトワーク代表の林千晶により、2時間に渡るトークセッションを繰り広げられました。ここでは、プレゼンとトークセッションの抜粋をレポートすると共に、イベントを通して見えてきた「旅」についてまとめてみました。

イベントページ:http://opencu.com/events/tabilabo-opencu

 

TABI LABOのコンセプトはメディアを通じて受け手の中に想いや行動=ムーブが起こること

イベントの冒頭では、TABI LABOのお二人が、その設立のコンセプトや現在の実績などについてメディアの紹介しました。

TABI LABO共同代表の成瀬さんTABI LABO共同代表の成瀬さん

成瀬さんは、自身が世界を旅をしていたとき、アフリカ最高峰キリマンジャロに登った際のエピソードを紹介。「キリマンジャロの4500m地点で、スマートフォンがつながり世界中の友達からメッセージを受け取ったのは不思議でした。どんな僻地でも世界に自分を発信できると感じたし、自分は世界にいると感じました」この体験から、自分の目を通した情報を発信する、それをみんなで行うことで、それを受け取った人が疑似体験できる感覚を共有したいと感じ、TABI LABOを作る目的が見えたそうです。

「世界を旅するMOVEする」というTABI LABOのキャッチコピーには、メディアを通じて受け手の中に想いや行動=ムーブを起こす想いがこめられているそうです。そのため、Webメディアでありながら、「現地の匂い」がしてくるような空気感も大切にしているとのことでした。

TABI LABO共同代表の久志さんTABI LABO共同代表の久志さん

共同代表の久志さんも、7年前に世界中のクリエイティブコミュニティを旅して回ったこと、その旅から帰り、都会を離れ宮崎に滞在したことが、世界と自分の関係について考えるヒントになったと話します。また、その当時は珍しかったノマド的な働き方が通用することも身を持って実感したといいます。

さらに、久志さんは「現在、月間2,800万PVのアクセスがあり、facebookのいいねは3万を越え、8割のユーザーがモバイルからアクセスしている」とTABI LABOの実績として数字を共有。そして、現在、TABI LABOが掲げる5つの戦略は以下の通りでした。

TABI LABOが掲げる5つの戦略
1)SNS&モバイルネイティブであること
2)ノイズでない感情がのせやすい価値あるコンテンツ
3)ハイクオリティでイージーなインプット&アウトプット
4)クリエイティブとカルチュアル、文化の匂いがする
5)アンバサダーとキーパーソンが作る

現在、300名以上のアンバサダーがTABI LABOの活動を支援する、新世代のメディアとして運営がなされているそうです。7月に大幅なリニューアルを行い、毎日15本の記事をアップ、さらに、読者に価値感を問いかける「特集」というキュレーションを行っています。サステナブルで高品位なWebメディアの運営自体が、彼らの持っているオープネスとシェアネスをまさに体現していると言えます。

 

現在3,045の空港、毎日59,000本の航路が運用されている!?

ロフトワークPRの石川ロフトワークPRの石川

続いて、イベントの司会/モデレーターであるロフトワークPRの石川真弓(@mayumine)から「旅の歴史」についてのプレゼンが行われました。過去の歴史を振り返ると旅の質の遍歴が分かり、そして現在、私達が旅に期待する想いが浮き彫りとなりました。プレゼンでは旅の歴史を以下のように紐解きました。

人類の拡散図:人類の拡散 『銃・病原菌・鉄 1万3000年にわたる人類史の謎 』(草思社文庫) より引用

旅の質の遍歴
・紀元前の旅は、食料を得るための活動
・農業の起こりと共に農地開拓が始まる
・650万年でヨーロッパに人が行き渡り、698万年でアメリカに人が到達
・文化と共に宗教が生まれることで巡礼も開始される。イスラムの巡礼、日本のお遍路など、一世一代の旅が行われる
・日本では江戸時代に東海道が整備され、一般の人にも旅が開放されることになった。
・日本における航空旅客機での旅は1964年のJALパックがはじまり。ヨーロッパ16日間で65万円。さらに持ち出し規制やパスポート承認も大変だった
・現在、3,045の空港が存在し、毎日59,000本の航路が運用されている
・現在、先進国でインターネット環境が整い、世界各地でネット検索ができ、AirBnBなどを通じ宿の手配もできる状況

と、俯瞰した視点で「旅の歴史」を振り返りつつ、自身が昨年行った世界一周旅行の結果、価値観は変わらないと感じたことなどのエピソードを披露。そして、続いてのトークセッションに向け、では、現在の旅のい定義とは?という問いかけでつなぎました。

 

日常と非日常のシームレス化。人生そのものを旅のように楽しむ感覚

トークセッション写真TABLI LABO共同編集長である佐々木俊尚さん(中央)を交えたトークセッション

トークセッションからは、佐々木さんと林も参加。まずは先のJALパックの話題に関連して佐々木さんが口火を切りました。「JALパックのころはジェット機がなかったので、香港、タイ、インドなどを経由してヨーロッパに行くのに、50時間くらい費やしていました。それ以前は旅=船旅でしたね。これらの旅が現在と大きく違うのは、旅先から連絡がつないこと。完全に“非日常”だったんです。そこから進んで1980年代でも国際電話などもばか高かった。その意味で一昔前までは、日常からの脱出こそが旅の最大の目的でしたね」

続けて、現在の旅の感覚を自身のエピソードを交えながら整理します。「例えば僕がハワイに滞在するとき観光はしない。なにをやっているかというと、地元のマーケットで買い物をして、滞在先のキッチンで料理をする。現地人と旅人が一緒なんです。さらにネットを通じ、仕事をしたり、facebookで発信したりする。つまり、旅先でも日常と変わらない。もう1つエピソードがあって、震災後、軽井沢に別荘を作り、イラストレーターの妻と週に数日はそこに移動する生活をしています。荷物もパソコンだけ持って行ってそこで仕事をする。すでに移動しながら暮らすことを実践しています」

“仕事と生活の境界”の視点では、「普段、誰かに会う、お酒を飲む、カフェでしゃべるという普通に行っていることもOn/Offがシームレスになっている感覚だと思うんです。旅と日常がシームレス、SNSを使うことでプライベートもシームレスになっている感じです」と示唆しました。

“旅=非日常と捉えること、移動しながらも日常”という感覚はTABI LABOの二人も多いに共感するところだという。「移動した先でも自分の日常を体現できる、昔の日本人が持っていた「ハレとケ」の感覚はすでにないですね」と成瀬さん。

それに関連して林が自身の体験でもった非日常感覚を語ります。「私は仕事で年間1/4くらい海外に移動しています。主にアメリカやヨーロッパ、そして、アジアにも出向くことが多いです。そんな中、昨年、タスマニアに行ったときに感じたのが“日常であって旅でない”ってこと。一方で仕事のプロジェクトで今年は岐阜の飛騨に行きました。そこでは、見るもの体験することが新鮮で旅だったんです。この体験から、旅は移動ではないなと感じたんです。同時に、例え国内であっても知った気になっていないか?という感覚を持ったんです」

「その感覚こそ、TABI LABOのベースになっているんです。場所や知識にとらわれず、知らない世界、知らない価値をどこまで今許容できるかということです」と成瀬さん。「ニーチェの“人生を最高の旅にしよう”という言葉が好きなんです。自分の中でイシューを持ち、それを生活に取り込んでいくことで、探求が生まれる。そんな感覚で生きていければと思うんです」

ロフトワーク代表の林ロフトワーク代表の林

そういった感覚はグローバルであることを林はものづくりカフェ/コミュニティであるFabCafeを通し学んだと語ります。「FabCafeのテーマに共感する人が、台湾、バルセロナ、ニューヨーク、タイと自然に広がって形になり始めました。これは「ビジネスを考えるのに国境はいらないということだなとつくづく感じました」

文化や価値を越えたつながりが旅にも影響することは見えてきたところで、佐々木さんからこんな助言もありました。

「最近では、例えば、ポートランドの文化の良さを日本で支持する人がでてきたり、国境を越えて価値を共有できる人が探しやすくなった。一方でそれ以外の価値観を持った人をどう許容していくか考える必要ある」。林から「今のSNSはつながりやすくなった(=プル型の情報取得)分、その価値の中に埋もれてしまう、つまり多様性を失う可能性もある」と続けました。その返答として佐々木さんから「冷静で分析的な思考が重要。同じ立場、文化圏の空気が持つ価値をステレオタイプに引き継ぐのではく、1つ1つのイシューをきちんと考えることが重要」とアドバイス。さらに「価値を判断するためには情報が必要で、そのためにTABI LABOがあるんです」と、トークセッションをまとめました。

以上のように、旅の話をきっかけに最終的には価値観の許容が大切と話が拡張しました。イベントのテーマである旅の再定義を行いつつ、“それぞれの人が旅の感覚を持っており、すでに実践している現在において、どういう行動を取るかが重要”とゆるやかな共感を持つことになりました。

ワークの写真ワークの様子

トークセッション後は、会場の参加者とのワーク。旅の定義を( )×( )=旅というフォーマットに落としました。「本屋×ぶらぶら=旅」「脱常識×やや苦痛=旅」「人生×構築=旅」「音×家=旅」「人生×仕事」などの意見がでてきました。

そのやり取りの中で“旅に向けてどのくらい準備するか?”という話題では、登壇者が全員「できるだけ少なく」「現地調達をうまく使う」など軽装派が多数。さらにモノでなく心構えの準備については、久志さんから「旅先の基本となる情報を集中して調べて終わり、あとは右脳に頼ることにしています。いろいろ試してきて一番、しっくりきた答えですね」とTipsをいただきました。

続いての質疑応答では「料理」「教育」「近所づきあい」などのキーワードがでてきました。登壇者の4名は、それをうまく言語化して共有しました。

質疑応答の会場写真

最後にイベントの締めくくりは佐々木さん。「バブルのころ20代だった私は社会人になったとき、宮台真司さんが提唱した“終わりなきに日常”にどう付き合うかがテーマでした。それから現在、終わりなき日常ではなくなってきた。“明日の仕事もどうなるか”という日常に置かれたわけです。一方で、こんなに不安だけど生きている。そこで思うのが、”旅しているような生き方でいいんじゃない、家や収入が十分になくてもいいんじゃない”という感覚を持つことですね」

非常に大きなテーマに触れていますが、“現在の旅を考えること=日常を考えること”に至った思考の旅は非常に刺激的でした。イベントのアンケートからも多くの皆さんから、話題の広がりにとまどつつも日常を思い直すきっかけになったとありました。

TABLI LABOの作るコンテンツを自身の感覚で吸収し、いろいろな価値観を許容しょう、自分の日常=旅を楽しむ、そんな視点を得るイベントとなりました。

登壇者の集合写真

 

テキスト/長者原康達(OpenCU)

石川真弓

株式会社ロフトワーク広報兼プランナー

株式会社ロフトワーク広報兼プランナー。デジタルものづくりカフェ「FabCafe」やロフトワークのメディアリレーション、コミュニケーション戦略プランニングの実施に従事。一方で個人ブログ「URAMAYU」を続けて13年、本業の傍らギズモード・ジャパンなど多数Webメディアのライターを務める。HDR写真制作をライフワークとし、著書に『HDR写真 魔法のかけ方レシピ』(2014年 / 技術評論社)がある。Lightroom関連のワークショップ、講演実績多数あり。uramayu.com
HDR写真 魔法のかけ方レシピ

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