こんにちは、ロフトワークのクリエイティブ・ディレクターの佐藤裕花です。
結論が出ない、議論が発展しないミーティングにお困りではありませんか?
そんな時に、効果的な手法のひとつが、「グラフィック・ファシリテーション」。まだ日本では馴染みのない「グラフィックファシリテーション」(以下、GF)。簡単にいえば、ミーティングやブレストをグラフィックを使ってライブレコーディングしながら議論を取りまとめていく、ファシリテーションの手法です。2012年10月6日に、OpenCUのWorkShop「思考のプロセスを可視化するグラフィックファシリテーション」が開催されました。ここでは、その様子をレポートします。
ワークショップの目指すところは、すぐに使えるスキル!
会場には「ミーティングをネクストレベルへ!」と、書かれた井口さんが用意した手書きのアジェンダが貼りだされ、ワークショップの第一回目が始まりました。会場は盛況で満員。全3回の基礎編となる今回は、「次の日から、会議や議事録でGFで使ってみてもらえるようにします」という井口さんの言葉通り、実践的な内容のワークショップとなりました。
GFの基本スキルをマスターするのが今回のゴール。普段、MTGでホワイトボードに議事をメモすることは多いと思いますが、そのメモのとり方にフォーカスし、徹底的に練習しました。基本が重要ということで、前半に概念、後半に実際に手を動かすワークを行います。
■第1回のワークショップの内容
- GFの基本概念
- ケースによるGFの使い分け
- 大きな紙の貼り方・ペン先の使い方
- 記号やピクトグラムを描く練習
- 聞き手と書き手に分かれ、会話をリアルタイムに板書(ヒアリング&レコーディングの練習)
ワークの前にまずは参加者の緊張をほぐすためアイスブレイクから。想像で絵を描くというゲームのお題は、アニメの「パーマン」。記憶を元に描かれた絵はとても個性的なものばかりで、参加者の間に思わず笑顔がこぼれ、朝一番の手と頭がほぐれました。
GFを行う際の基本の考え方を学ぶ
まずは座学から。「グラフィックファシリテーションの特徴と大事な要素」と題して、GFの基本的な手法を学びました。グラフィックファシリテーションの良いところは、視覚的に表現すること。その場全体で情報を共有できること、過去・現在・未来の時間軸を持って議論を進めることができること、など、丁寧な解説が続きます。ここでは印象に残ったポイントを簡単に紹介します。
◎GFを行う際に必要な3つの力
しっかりとファシリテートするためには、「何を書けばいいかわからない!」と手を止めずにとにかく書き進めることと、見やすいことが重要になるそうです。
そこで必要になるのが、Self Presentation・Visual Editing・Resource Useの4つのスキルです。
- Imagination =ビジュアリゼーションの色々な可能性を即興的に模索する力
- Self Presentation =恥ずかしがらずに描き進める度胸や自信
- Visual Editing =話されている言葉を「文字」「イメージ」「比喩」などを使って視覚的に表現する力
- Resource Use = ペン、紙、テープ、ポストイット、テンプレートの使い方を熟知すること
なかなか難しそうですが、要点をおさえて練習すれば、ちゃんとできるようになるそうです。
◎まずは素直にすべてを書き取ること
“情報の取捨択一をしながら議論をリードする!”と力んでしまいがちですが、まずは自分の解釈を入れることなく、すべてを間違いなく記録(Record)することが大切だそうです。実はこれ、グラフィックファシリテーションの良さを生かす大事なポイント。
◎見やすさを重視
実際どう書いたら良いのか? 続いて「書き方(グラフィック・レコーディング)」の解説へ。書き方のコツは以下3つ。
- 書き始めはキャンバスの真ん中に。テキストはスペースを十分にあけて配置すること。
- ペンは3色程度を交互に。テキストは寒色系で見やすく、重要なものは赤字で。
- マークやあしらいは後追いで。オレンジなど柔らかい暖色系の色をつかって。
見やすさの技として、井口さんのオススメは “パステルで目立たせる” です。目立たせたい部分にさっと線を引いてティッシュでぼかすだけ。素早くキレイに発色するため、“早描き”に合っているのだそうです。
その他、数種類のアイコンの使い方、議論をあとで結びつける(リストとクラスターの結び付け)など、普段、井口さんが実践している方法を教えてもらいました。
レコーディングではペン先や線の太さも意識する
後半はいよいよ「グラフィック・レコーディング演習」です。
まずは、大きな紙を使うGFならではの「紙を貼る」練習から。紙をどの高さに、どれくらいの長さで貼るか、あくまでミーティングの議論を可視化することがゴールですが、紙の貼り方もその第一歩として重要な作業となります。
レコーディング演習のはじめに行ったのが、「グラフィック・ランゲージ」の練習。グラフィックランゲージとは、グラフィックファシリテーションの際に使う、アイコンや矢印などのピクトグラムのこと。ボックス、まる、スターマン、基本的なグラフィックランゲージを教わり、壁に向かって個人練習スタート。やってみると意外と難しく、会場では様々なリアクションが沸き起こっていました。
“手を動かして耳を傾ける”という基本動作を体感!
さて、最後は本ワークショップのメイン、他人のフリートークをグラフィック・レコーディングする演習です。4人のチームで2名の「話し手」と2名の「グラフィック・ファシリテーター」に分かれて実践してみます。テーマは参加者からの提案で“これからのペット産業について” グラフィックファシリテーター役の皆さんは緊張の面持ちで…と思いきや意外なほどスラスラ! 前半に教わったポイントの使い方などもしっかり実践できていました。
計2回のサーキットの合間に、井口さんの解説が入ります。その指摘で一番多かったのは、「記号やポイントも丁寧に」でした。すべてを、レコーディングしようとすると、アイコンやクラスターの囲い線が雑になってしまいがちですが、「きちんと塗りつぶす」「線をつなげる」ことがグラフィックファシリテーションの質をぐっと高めるそうです。
ここで個人的に驚いたのは、レコーディング演習を2回行った後の、1回目と2回目で格段にレベルアップされていたこと。1回目はポイントを解説されてはいますが、まずは自由にやってみた状態でした(恐らく初めての方も多い)。しかし、井口さんからのポイント解説が入り、2回目は、それを意識したことで随分と見やすくなりました。
要素間のまとめ方、項目の書き出し、グラフィックでの強弱の付け方など、気にするべきポイントはさまざま。手を動かして、耳をすます、文字通り「体得」するのがGFの一番の上達法のようです。一度、やってみるとその難しさに気づくと思います。短い時間の演習でしたが、グラフィック・ファシリテーターが「場のリズムを作る」という、井口さんの言葉の意味を少し感じた時間でした。
続く第2回(*)は長時間に渡る複数の話し合いの過程を、1つの絵巻物のようにして時間の流れに沿ってまとめるGF手法を取り上げるとのこと。今回の演習をまずはマスターして、次回に備えていきたいと思います。
*10/18から、次回の参加者募集を開始予定です。オンラインのコミュニティでは、イベント告知やコラムをメルマガにて定期的に配信します。まだ参加してない人はぜひ、OpenCU WorkShopからお申込みください。