去る2016年3月から4月にかけて、野村恭彦「シナリオ・プランニングで、新たなビジネスを生み出す 3DAYSフューチャーセッション」が開催されました。プロデューサーという立場からクライアントの課題解決を提案するためのヒントになりそうと思い参加しました。ワークショップは、野村さんが監修をした書籍『シナリオ・プランニング』をベースに、3日間講義&ワークとなっています。
テキスト:浅見和彦(株式会社ロフトワーク/プロデューサー)
ワークショップ主旨や目的は以下の募集ページから確認できます。
『シナリオ・プランニングで、新たなビジネスを生み出す 3DAYSフューチャーセッション』
https://www.opencu.com/2016/02/scenario-planning/
“シナリオ・プランニングを深く理解し、実践を通して”将来の絵”から先んじて新たなビジネスを生み出すノウハウを学びます”とあります。なんだかおおげさですが、ワクワクしますね。
テキストとなったのは、英治出版『シナリオ・プランニング――未来を描き、創造する』
ワークショップ3日間のカリキュラムは以下のようになっていました。
DAY01「シナリオ・プランニングの理解」
概論:シナリオ・プランニングと新規事業
work01 集合知型読書:「シナリオ・プランニング―未来を描き、創造する」から学ぶ
work02 対話:「変わる会社、変われない会社」の未来
DAY02「フューチャーセッション(1)―変化の兆し」
work01 変化の兆し
シグナルストーミング:「変わる会社」に影響のある、今後10年の環境変化を集める
work02 変化の分かれ道
ドット投票:インパクトが大きく不確実性の高い変化を特定する
DAY03「フューチャーセッション(1)―シナリオづくり」
work01 シナリオづくり(1)
ワールドカフェ:「変わる会社の未来」の4つのシナリオを描く
work02 シナリオづくり(2)
プロトタイピング:「変わる会社」に必要な、新ビジネス創造アプローチを構想する
目次を見るだけでは?のような内容が並んでいますが、ワークショップ中は終始、野村さんのファシリテーションを元に小気味良く進んでいきました。時には苦戦しつつも、だんだんと自分の思考がドライブしていく感じが心地よかったです。
その中から、ここでは私自身の学びの視点を紹介します。
その1:バックキャストから考えると自分事にしやすくなる!
シナリオ・プランニングは、「フォアキャスティング」でなく、「バックキャスティング」から考えます。今起きている事やデータから確度の高い未来を予想する「フォアキャスティング」ではなく、未来はこういった事が起こるであろうといった未来から逆算する「バックキャスティング」という未来志向の考え方がベースにあります。
その意味は、「フォアキャスティング」だと確度は高いが受け身になりがちといった特性に対して、「バックキャスティング」は未来を想像するため自分事(じぶんごと)にとして考えやすい、といったメリットがあります。そのためには一人ではなく、多様な意見を出すために複数で考えることがミソです。
今回は、【10年後に変わる会社】をテーマにワークが行われましたが、100年後の世界ではなく、10年後といった近い未来が設定されたためイメージしやすかったです。これが、あまりにも遠い未来だとSFの世界になりすぎてしまい、自分事化しなかったり、リアリティが損なわれるので、年数の設定も大事なポイントだと感じました。
今から数十年後の未来を考えてみると、実現しそうなコト、夢の様なコトも含めて幾つもの仮説が浮かびあがってきましたが、バックキャスティングですと、現在の生活へのつながりもあるわけです。そのため、一足飛びに未来がやってくるわけではなく(朝起きたら最新テクノロジーによって生活が一変していた!とは考えにくい)、
今起きているコト、未来に起きるであろうコト、それぞれの点としては考えていることを今と未来を結ぶ「線」や「面」で考える練習をしました。シナリオプランニングはそれらを、
・未来を動かす「ドライビングフォース」
・未来を左右する「分かれ道」
のような問を設定して、体系立てて行っていくため、「なんとなく」行っていた人にも非常に整理されて便利なフレームワークだと感じました。詳しくは『シナリオ・プランニング――未来を描き、創造する』に順序立てて記載されています。
その2:あえて「不確実性の高い」アイデアを残して考える勇気
第2回目以降は、お題であった「変わる会社」を考える上で、PEST(Political:政治/Economic:経済/Social:社会/Technological:技術の頭文字を取った造語)と紐付けながらアイデアを出していきました。
単に思いついたアイデアを羅列していくだけでなく、影響度が高いと思われる外的要因と紐付けてアイデアを出していくため、ある程度、粒度の統一感を図る事ができます。ディスカッションしたり、他のアイデアと比較する上でも、これは大事なポイントでした。
ここからがシナリオプランニングの真骨頂で、出たアイデアに対して「不確実性」の高いアイデアを2つ残すことです。確実性が高いとは、限りなく予測不能な外的要因(宇宙人の襲来)や限りなく予測可能な外的要因(AIの普及)といったことであるため、ここで外すわけです。
最後に残った不確実性の高い2つのアイデアを基に対立軸を考えます。
対立軸を考えるポイントは未来の分かれ道を意識することと、対義語で表現することです。
ここで苦労している参加者が多く見られました。チームワークであるため、グループで考えている事を、いかに言語化するかが、対立軸を作る上で一番重要なポイントになりました。
設定する軸へのメンバー投票
そして、対立軸が2つできたら縦横軸に組み合わせ4象限を作ります。結果、4つの世界ができるため、それぞれどのような世界観を持っているのかをグループでディスカッションを行うことになります。
アイデアから作られた4つの世界観
ここで面白かったのが、4つの世界に対してニックネームの様に名前を付けること。この後シナリオの世界観を想像しやすくなり、考えやすくなる手助けをしてくれます。今回は、野村さんが考えてくれましたが、企業では、キャッチコピーライティングができる人や得意な人が担うとよいと思います。
シナリオプランニングの準備5つのステップ
1)PESTにひも付けながらお題を要素分解(アイデア出し)
2)アイデアのうち「不確実性の高い」もの2つを残す
3)2つのアイデアを対立軸に対義語で設定する(未来の分かれ道)
4)2つの軸を交差させ4象限を作る
5)4つの世界を議論してニックネームをつける(世界観の共有)
4つの世界には、野村さんの付けた、端的なキャッチコピーが付けられ、チーム内外の共通認識として機能していました。
その3:シナリオを考えるとは、予測であり、備えにもなる!
最後は4つの世界に対して、それぞれの現在からのシナリオを考えます。まずは各世界の特徴や、その世界の成立条件を考えるところから始めます。世界を把握した上で、どのようなイノベーションが起こせるのかをグループで考えました。
また、イノベーションを起こすためのアイデアだけでなく、起こすために政府レベル、企業レベル、個人レベルで、どのような事が起きないといけないのかも分解して考えます。ドライビングフォースの時同様、外的要因も紐付けて考えることで、アイデアがより具体化していく感覚が得られます。
最終的なシナリオの発表は私自身で行いました。1つのアイデアを丁寧に紡いでシナリオに到達する感覚は、これまでに無い充実感があります!
この様に、不確実性の高い2つのアイデアの分かれ道から、最終的に4つの世界に対して、イノベーションが起こせるであろうプランが生まれました。その上で政府や企業や個人も含めて変えていく必要があることが理解できます。このプランを基にまだ見ぬマーケットを開拓していくという方法もありますが、個人的には、未来の可能性に対して「備え」という免疫ができるのも、企業としてメリットがあるのではと感じました。
すべてのワークを終えた段階で、同じテーマ4つのシナリオが出来あがりました。それをさらに精査するもよし、企業内の方針や、クライアントへの提案(または、クライアントと一緒に作る)にするもよし、シナリオプランニングの活用も今後の楽しみです。