IAの標準化が次の世代の製作者への使命だと思う
坂本氏が現在進行中している将来に向けたプロジェクトとしてOpenUM(Open Universal Menu)プロジェクトがある。Web関連会社11社が共同発起人となり2011年1月14日に発足した、地方自治体サイトのメニューの標準化・オープン化を目指す任意団体である(株式会社ロフトワークによるプレスリリース)。坂本氏は本プロジェクトにて、副事務局長を務めている。
坂本氏が自治体サイトに興味を持つようになったのは、2009年1月に実施したWebSig24/7のIA分科会で“ライブIA※“と称して自治体サイトを取り上げたことがきっかけだという。また、日本ウェブ協会が主催する2010年のウェブ会議で、高松や青森で講師を務めた際にも自治体サイトをIAの視点で取り上げている。これら2つとも“自治体サイトに役立つIA視点”としてSlideshareに公開されている。
※ WebSig 24/7 で実施したライブIAは坂本氏のブログから動画で見ることができる。
ウェブ会議 in 高松のスライド
ウェブ会議 in 青森
「以前から、自治体のWebサイトは使いにくいと感じていましたし、自治体サイトのユーザビリティランキングなどでもニュースに取り上げられる機会が増えてきていましたので、個人的にも関心を持っていました。例えば、引っ越しをする場合に自治体サイトに訪れて、住民票の手続きを探そうとしてもどこにあるのか分からなかったり。ゴミ捨ての日や分別方法がすぐにわからなかったりと、生活に最も身近なシーンで情報を探せなかったりするんです。
OpenUMプロジェクトは、NPO法人アスコエの作ったユニバーサルメニューという規格が元になっています。地方自治体には最低限このようなメニューが必要でしょうとか、こういう構造であれば分かりやすいでしょうといった具合に情報構造における基準を標準化し、これを各地方の自治体サイトで使える枠組みをオープン化する取り組みです」
さらに、坂本氏は活動の意義をこう定義する。
「フレームワークを標準化する、という考え方はすごく意味があることだと思っています。ユーザー視点で、必要な情報がどこの自治体サイトでも同じように提示されているだけでも今より圧倒的に便利になりますから。さらに、制作側にとってもそうしたフレームワークを活用できることで、制作側もスピーディーにWebサイトを構築できます。これまでゼロから考えていた情報構造は標準化するだけでよくなり、それ以上に付加価値の部分に時間やコストを割くことができるわけです。本来、自治体が取り組んでいる手続き窓口などはいわゆるサービスとして考えるべきなので、サービス向上をはかるためには必要なフレームワークといえますね」
これまで、IAやWebディレクター向けにセミナーや勉強会などで活動をしてきた坂本氏にとって、OpenUMプロジェクトは大きなターニングポイントになるという。ゆくゆくは、自治体サイトだけでなくさまざまなサイトに発展していくことを展望している。
「自治体サイトに限らなくて、例えば、映画のプロモーションサイトでも同様です。見た目はそれぞれの映画ごとに工夫がされていますが、作品紹介、スタッフ・キャスト、劇場情報など、必要な要素とはおおむね決まっているんです。“○○分野のサイトであれば、この要素とこういった構造が基本”ということが、規格化されていれば、IAの仕事にしてもWebディレクターの役割としても圧倒的に効率よく進めることができます。いや、そうしないと、何時まで経っても付加価値の部分に時間を使えなくなると思うんです。僕らが昔苦労していたのと同じようなことで、今の新しい人たちも苦労している気さえしてきます…今は技術の変化も早く覚えることが膨大ですから、そうしたフレームワーク部分を整備することで、彼らにとっても重要な取り組みになると考えています」
Web黎明期から携わってきた坂本氏は、新しい技術やツールが登場するごとにそれを吸収していけばよかった。しかし、今からWeb制作を始めようという人は、制作だけでなく、Webマーケティング視点、ソーシャルネットワークの動向、マルチプラットフォームやエコシステムなど、最初に覚えなければならないことが山ほどある。
「だから、新しい人を教育することももちろん必要だけれど、フレームワーク作りや標準化は、僕らの世代の責任だと思っているんです」と力強く坂本氏は言い切る。