IAを専門職として成立させたい
また、坂本氏はIAに対する想いをこのように言う。
「現状では、まだ “IA”として職能を切り出すことは難しいと思うんです」
坂本氏は、ネットイヤーではIAというポジションは比較的確立されているが、他の会社ではディレクター・プロデューサー・デザイナーという職種が一般的である点に着目している。
「もし転職しようとした場合、 “IAの実務を1年間やりました”という経験だけでは一般的な会社では通用しないと思います。ただ海外では事情が違っていて、“あるプロジェクトでこのようなIAを募集”という形で求人情報がネットでも飛び交っています。米国などでは、スキルを持った専門家かあるいは小さな技能集団が、それぞれの専門分野のスキルを持ち寄って、全体プロジェクトとして遂行していくという仕事の進め方が成立されているようです」
IAの認知や仕事のやりやすさを考えれば、海外進出という選択肢もある。事実、坂本氏はIAに関する海外の情報もtwitterやブログで頻繁に紹介もしている。
「憧れはあるし、全くないとは言えないですね。それは常に考えています。でも、日本でIAという職種を専門職として成立させたい、という思いが今はありますね。ディレクターやデザイナーは、腕を磨いて独立するのが、ある意味“アガリ”ですよね。でも、IAは何を目指してどう働いていけばいいか、まだよく分からないというか…。だからとりあえず僕は講演したり本を出したり、いろいろやってみて世の中のニーズを拾おうと考えているのが現状なんです」
事実、坂本氏の活動が認知されるようになり「IAについて話したりするとみんな耳を傾けてくれるようになった」と言う。
「そういう意味では、まずセルフブランディングが重要ですね。日本人て、海外からの情報を舶来物としてありがたがったり、ブランドのあるものを好む傾向にあると思うんです。単純に好きじゃないですか。そういう性質を利用しない手はないですから。いわゆる”お墨付き”というやつですね。なので、まずは自分自信で発信をし続けて、関係する方々と共有していきます。そうすることで、“IAの坂本“という認知のされ方を確立していくわけです。その上ではじめて、自分が本来考えているIAというものを発言することで、広く・多くの方々に理解されていくと思うんです」
キャリアパスのモデルケースになる責任がある
独立起業がIAの“アガリ”ではないと考える背景には、日本の代理店に丸投げという商習慣もあるという。
「これまでも、独立については考えたり、声をかけてもらったりもしました。自分でもそれなりに仕事はやっていく自信はあります。ただ、なんというか…独立起業は見方によっては違うなと考えることがあります。たとえば、大規模なプロジェクトを手がけることやその中で強みだけで勝負できる環境、そういう仕事や体制の中から、いろいろなスキルが身についたり新たな発見があったりと、新しい人とのつながりが生まれたりもすることが多くあります。そういう面では、現状の環境の中でやっていくことは決してマイナスではないと考えています」
「OpenUMは、総務省というオーナーがいて、優秀な人材を集めてプロジェクトを遂行するという、欧米的な仕事の進め方にも近いので、僕の求めるワークスタイルのひとつといえます。そういう、スキルセットで仕事をしていくやり方は他にもいろいろあるかと思いますが、そういう活動をしていく中で、“日本での環境整備”というようなものをやっていきたいと今は考えています。ロフトワークさんの理念でもある“クリエイティブの流通”というメッセージには非常に共感していて、それがブレイクスルーになることに期待もありますね」
もう1つ、新しい職種であるIAにはキャリアパスを描けないという課題もある。
「ディレクターやデザイナーであれば成功者と呼ばれる人がいて、こういう努力をしていけばこのようになるということをイメージしやすい。でも、IAではそれがないんです。友人の中にはメーカーで仕事をする人もいる。大学やシンクタンクのようなところで学問的に追究するという道もあるだろうし、IAの本場の海外に行くという方向性もあり得る。いずれにしろ、日本のIAがステップアップしていくためには何が必要なのか、どうあるべきなのか、IAのキャリアパスのモデルケースになるのは自分の責任でもあると考えています」
「日本のWeb業界で専門職をいかに育てるかに注力したい。独立すれば自由にできる範囲が広がるけれど、それでは専門職を突き詰める思考はスポイルされがちに思えてしまうんです。組織をマネージメントする側面、”フレームワーク”と”教育”を自分の中では提供し続けていきたいと考えています。それがあって初めて、自分たちがやってきたことを還元できる。みんな“今の受注・制作”の世界のやっていきたいかといったら、そうではないと思うんです」
最後に、坂本氏は自身の活動をこう締めくくった。
「Web業界で専門職をいかに育てるかに注力し、その中で自分はモデルケースでありたい。会社の中にいるけれど自分のポジションを確立しつつ、(業界や新しい人たちに)いい影響を与える、そして外部の人たちと組み合わせて大きな仕事ができる環境が持てるといいと思っています」
自らのキャリアを「他の人がやっていないところ」「自分にしかできないこと」に魅力を感じるという坂本氏。それを意識した上でこれまで行なってきた仕事の数々は、結果として業界全体の意識改革になった。それに確信を持ち、今後も様々な新しい視点を見つけていく氏の活動に今後とも目が離せない。