現場のデザイナーが感覚的に共有することからIAを定義した
森田氏がWeb業界にキャリアチェンジした理由は“Webのすごさ”だ。氏はこう評する
「自分の作ったものが、即、世界中に発信される。アップロードした次の瞬間から、どの国の人でもそのサイトに来られる。それが面白い」
ビジネス・アーキテクツ社(以下、bA)のオープニングメンバーの一人となった森田雄氏。約30人のスタッフは、Webサイトの戦略からデザイン・実装までのプロフェッショナル集団だった。森田氏はそこへ、UI(ユーザーインターフェース/編注1)デザイナーとして迎え入れられた。
「UIデザイナーという触れ込みでしたが、最初の半年はひたすらサイトの実装をやってました。それと並行して、エンジニアの経験を買われてなのか開発やサーバー管理も任されていたので、土日も夜中もなく仕事に打ち込みました。いくらでも働いてしまう社畜型人間にはうってつけの状況でしたよ」
フリーランスの出身が多く組織としての業務スタイルがまだ手探りであったことから、森田氏はマイクロソフトの業務で培ったナレッジを活かして、社内のトータルなシステム化を提言。その実現のため、翌年からは長時間を投じて、社内全体の業務ワークフローを設計・構築することとなった。
また、自ら「品質管理部門を作るべき」と提案したところ、品質管理室長のポジションも任され、UIデザイン・実装・開発・サーバー管理に加え、品質管理とナレッジマネジメント業務にも携わることとなる。
「今でこそ広まったIA(インフォメーション・アーキテクチャ/編注2)の概念は、その当時はまだポジションとして明確ではなかったと思います。僕たちは“よいサイト“”であるとか“よいデザイン”とは何かと常に考えていましたが、”なんかかっこいい”とか”なんか気持ちいい”とかの領域からなかなか出られませんでした。けれども、よいWebサイトデザインには何らかの根拠があると考えていて、戦略から設計、デザイン・実装といったすべてのフェーズから要素を抽出して、現場的に今でいうIAのような概念を生み出しました。しかしインターネットで情報を探したところ、英語圏ではそういう職種があって、その業務内容みたいなのまでがすでに定義されてたんですよね(笑)」
bAの制作現場でデザイナーたちが感覚的に共有していたノウハウと、ネットや書籍を通じて収集したIAの定義をかけ合わせ、“bA流のIA”を形にしていったのだという。
「スタッフはみんな、入社前からそれなりの実績がある人たちばかりだったので、共通言語をつくって、制作ノウハウの共有化ができれば、あとはラクなものでした。優れたデザインの根拠を肌と頭で認識し、実際に手を動かせばいいだけですから」
編注1:デバイスやソフトウェアの操作における入出力手段。UIデザイナーは、人からコンピュータやソフトウェアへの入力手段、反対にコンピュータやソフトウェアから人への出力手段、これらをよりわかりやすく整える。Webデザインにおいては、たとえばブラウザの中で表示されるすべての要素や情報を設計する。
編注2:Webサイトの情報構造や文書単位での設計図。グラフィックデザイン、エディトリアルデザイン、ビジュアルコミュニケーションといった幅広いデザイン知識体系とITテクノロジーの組み合わせによって構築される。