自ら制作したサイトを振り返って…
数多くのWebサイトを世に送り出してきた森田氏が、特に印象的だったとする仕事をいくつか挙げてもらった。
まず、2005年に開催された”愛・地球博”こと、愛知万博のWebサイト制作。bAは公式Webサイトだけでなく、イントラネットの設計など広い範囲でこの大規模プロジェクトに携わった。その中で、公式サイトの制作ディレクションを担った森田氏は、意外なところでストレスを感じることになったという。
「この制作フローでは、いろいろなことを考えさせられました。毎週のように名古屋で会議があったのですが、とにかく関係者の数がものすごく多くてなかなか物事が決まらない。結論が出る時間の長さに辟易してしまい、途中から”勝手に進めちゃおう”と考えて、自分の担当に直接関係のあるものを作っては確認に出してしまうようにしたんです。 “出しゃばってしまってマズいかな”と不安に思いつつも、ゴールを見据えて淡々と進めました」
そんな過程を経て完成したサイトであるが、結果として、使い勝手の良さ、インタラクティブな面白さ、さらにHTMLソースの美しさでも、“参考になるサイト”として各方面から高く評価された。
それまでの実績から制作面でのクオリティには自信があった森田氏も、プロジェクト進行やファシリテーションの面で考えさせられた点で、とても印象的なプロジェクトだったようだ。

bA時代の森田氏の代表作のひとつ、愛・地球博の公式サイト 幅広いユーザーの利用が想定されており、目的の情報へ辿り着くためのIAやユーザビリティの工夫が随所に光る。 (キャプチャーは会期後サイト。bAは会期前サイトと会期中サイトのほか全体設計やガイドラインも担当しており、会期後サイトはガイドラインに準じて制作された)
次に森田氏が挙げたのは、『西村あさひ法律事務所』のWebサイトだ。
「デザイナーやエンジニアなどを合わせ、総勢20名弱のチームで半年間かけて作りました。日本最強の弁護士事務所なのだから、それにふさわしいWebサイトにしたいという意気込みでさまざまな工夫を凝らしています。作業の中で一番、印象に残っているのは、メニューのラベル設計ですね。制作チーム全員で、長い時には6時間連続の会議を持って議論しました。動線のきっかけや情報の理解促進において大変重要なラベルですから、“本当にこの表記で正しいか”と討論を繰り返し、ユーザビリティをこれでもかというほど追求したんです。徹底して”いいものを作りたい”というメンバーのモチベーションが高く、まったく妥協のないWebサイトに仕上がりました」
日本語圏が主要顧客であるクライアントのサイトなのだから、英語はできるだけ使わない。字は大きめにしつつも、見た目にスマートなデザインを目指した。アクセシビリティだけでなく、HTMLやJavaScriptのギミックという面でも優れたサイトを作り上げることができたのだという。

西村あさひ法律事務所の公式サイト 最初に目に飛び込むのは、「Active Matrix」と呼ばれるメイン画面のFlashメニュー。サイト自体がマトリクス構造で構築されているが、 Active Matrixはこれを視覚化している。ツリー構造をたどるのではなく、能動的にコンテンツへ到達するための趣向が凝らされている。 また、徹底してこだわったメニューのラベルは、通常、煩雑になりがちな日本語のメニューにあって、整然とした美しさが心地よい
今回、紹介したWebサイトの他、bA在職時代終盤の案件であった株式会社iTVと文部科学省の特設サイトについても話は続く。次回、2つのWebサイト制作と森田氏の“これからのWeb観”に迫っていきたい。