自身のブランディングの残りの一手が出版すること
坂本氏は社内での仕事の他にさまざまなセミナーの講師もしている。
「制作現場での知識や培ったナレッジを、企業研修や一般向けセミナーで話したりしています。2009年からはディレクター向けIA入門のような講座でも講演していて、2010年にはFacebookや自治体サイトを話題に登壇することが多かったですね。回数も2010年では10回(日)とかなりの頻度で行いました」
このような講演活動の最初のきっかけは、ブログなどで知り合ったネット上の仲間とのつながりだという。そのつながりの中に、Webを利用するさまざまなレイヤーの人が集まり共通の課題について協議・検討を行うコミュニティWebSigの中心的なメンバーもいた。
「WebSigでIA分科会を開こうということになって、そこに参加したのが発端でした。それで、そのころからプレゼンのスライド作りにはまったんです。日本人の場合、たいていプレゼン資料ではなくて説明資料になっているんですよ。その2つは違うと思うんですね。配布資料はプレゼン資料の印刷ではなくて別に用意するものだと考えています。今では、Slideshareなどで音声と合わせてプレゼン資料を見ることができるので、プレゼンのやり方からスライドのデザインまでいつも勉強しています」
セミナーでの講演以外に、執筆活動もしている。ブログは今でも継続中で情報発信し続けているが、その他にもWebのニュースメディアや雑誌の連載などに寄稿する他、「プロセス オブ ウェブデザイン」(翔泳社刊)という単行本もある。本書は、出版当時から「サイト制作における中間成果物を見せつつ、当事者が解説を行う」という異色の解説本であり、影響を受けたWebディレクターやデザイナーも多い。

『プロセス オブ ウェブデザイン 企画からデザインへ 落とし込みの技術』WEB CREATORS LAB. (著) 2006年6月に出版された本書は、企画がどのようにWebサイトとして形となっていくかを、企画書、ラフ、スケッチ、メモ、プロトタイプなど見せながらサイトの規模別に解説している。坂本氏は、「大企業のWebサイトにおけるトップページリニューアル」と題したチャプターで、au(KDDI株式会社)のサイトリニューアルを解説。具体的な資料と共に、「何を考え作ったか」 のプロセスが克明に記されている
そして2011年3月下旬に、新しい自著『IA Thinking』(ワークスコーポレーション)から出版する。
「一人で執筆した単行本としては最初の本ですが、これは“演習本”なんです。今の世の中“××のための×個の法則”みたいなタイトルの本やコンテンツがたくさんありますよね。その本のタイトルにあるように、みんな答を求めているんです。でも、実際には答えを覚えただけではダメで、どう導き出されたかのスキルを身につけないといけないと思うんです。そこにフォーカスをあてた本です」
本の内容は、「第1章 IAというスキル」「第2章 情報分類とメニューの最適化」「第3章 サイトストラクチャの理解」「第4章 ナビゲーションパターンと用法」「第5章 ユーザー行動と画面設計」「第6章 ワイヤーフレームの設計」となっている。
「演習本だけど、正解は載せていないんです。ただし、回答例は載せています。“このようなポイントを押さえることで、このような答が導き出される”という思考プロセスを載せることで、考え方の参考にしてもらうわけです。実務ではいろんな要素が組み合わさるから“これが正解”というのはありませんしね。だからこの本では、“このような条件下では、このように考えると、こういう答が出せる”という回答例を示しています。
坂本氏は、『IA Thinking』について、内容が賛美されることは求めていない。
「むしろ、読者がそこは違うと批判してくれることを望みますね。批判できるほど考えたなら、それはきっと実務に役立つでしょうし、それならどういう回答を導き出しますか?と本を介してボクと議論しているようなイメージです。IAを学問として紹介するのではなく、現場で役立つ本にしたかったので。その想いが伝わるといいかなと考えています」
次回は、今後の活動であるOpenUMや自身のブランディングについて聞いていこう。