Flashを使ったWebサイトの森田流演出のワザ
ビジネス・アーキテクツ社(以下、bA)のリーダー兼プロジェクトマネージャーとして、受注するほとんどのWebサイト制作プロジェクトに関わってきた森田氏。リッチなグラフィックとインタラクションでユーザーを魅了するFlashサイトも氏の仕事の真骨頂と言える。
「三重県のiTV(株式会社アイティービー)というCATV会社の仕事で、『日本の暮らし二十四節気めぐり 言の葉草』(以下、言の葉草 )というスペシャルサイトを作りました。二十四節気を順に日めくりで解説していくという見せ方よりも、日本の文化・食・慣習といった普段なにげなく接しているものの積み重ねが結果として二十四の節気として表現されているということを伝えています。テキストはすべて書き起こし、多くの文献をあたって季節の俳句なども引用しています。写真は神宮や現地の写真家の方のものを使いましたが、全部で100以上の画面もあるので自分たちで撮影したものもあります。蓑虫の写真は季節が冬だったので運よく見つけることができました(笑)」

日本の暮らし二十四節気めぐり 言の葉草 | 伊勢志摩の旅 よいとこせ 開いた瞬間に縦書きの日本語が儚げに現れ、消えていく。プロローグのあと、カレンダーと連動した二十四節気の項目が中央に登場し、 節気を選択することで季節感あふれるビジュアルとキーメッセージに切り替わる。 さらに進めば、節気を構成する文化・食・慣習を知ることができる。本でも映像でもない表現で、言葉の配置とインタラクションが楽しめるサイトだ
「言葉の意味としての二十四節気について知りたければ、Wikipediaや手元の辞書をみれば済むことです。こうしたサイトを見なくてもいいし、むしろ、単なる意味に到達するのはFlashサイトだと遅いですよね。『言の葉草』は、言葉の持つ情緒みたいなのが合わさって節気を発見するというような、そういう楽しみ方ができる表現を追求した結果なんです」
辞書よりも娯楽・余興という側面の強いFlashサイトは、確かに学習ツールとしては早くない。しかし森田氏は“楽しむサイト”という価値観を標榜し、実際にその世界観に入り込んだかのような見事な空間を、ネット上に演出しているのだ。
『言の葉草』と同様に、楽しむサイトの表現として、文部科学省の特設サイト『どんな?文科!数字で見る文部科学省:文部科学省』(以下、どんな文科)も体感型サイトの工夫が随所に見られる。
「『どんな文科』は、統計などの数字を切り口に文部科学省の取り組みを知るサイトです。義務教育に使われている税金がいくらだとかを直接的に書いても、単に“高いよね安いよね”っていう受け手の感覚しか残りませんが、こういう子どもはどれだけいるとか、先生の人数はこれぐらいだとか、そういったちょっと間接的な数字を頭に入れていって、その結果こういうふうに国のお金が使われているんだという伝わり方のほうが楽しめるんじゃないかと考えました。制作期間は短かったのですが、こうした企画を提案してクライアントの全面的な支持を頂いていましたので、ほとんど手戻りなく作ることができました。kobouzuさんにイラストを引き受けてもらえたのもよかったですね」

森田氏のbA最後の仕事となった 『どんな?文科!数字で見る文部科学省:文部科学省』 気になる数字から文部科学省の取り組みを発見していくWebサイト。ランダムに流れてくる好きな絵を選ぶか、 検索パレットから好きな数字を選ぶことで数字の解説が表示される。ボリュームのあるコンテンツだが、子どもだけでなく 大人も楽しみながら学ぶことができ、親しみやすさも感じるWebサイトである。
また、文部科学省のサイトという特性上、PC環境の有無にかかわらず、子どもたちにサイトのコンテンツを楽しんでもらおうと、PDF版も制作(上図左下)。プリントアウトして綴れば、絵本兼資料集として使用できるという工夫も森田氏のアイデアによるものだ。
森田氏は、PVの獲得やコンバージョンの達成とはまた違う観点でWebサイトを考えている。「統計情報や文科省の取り組み自体は、もともとサイトにありますからね。単純に情報収集をしたいなら『どんな文科』は必要ないんです。あくまでも“見られたらプラスになるけれど、見なくてもマイナスにならないサイト”を目指しました」と語る。
そんな、森田氏がbAを離れ、充電期間を経て2010年5月興したのが、株式会社ツルカメである。