いま現実は、ここまで拡張できる AR三兄弟インタビュー

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26.May.2011

“匂いAR”なども、拡張現実では起こる未来

 

さまざまなものを拡張してきたAR三兄弟に、ARの未来について聞いてみる。 「まだ5~6年では実現できないレベルですが、次は視覚以外の拡張が起こると思います。今の拡張現実は何でも、視覚に寄ってるんです。AR=メガネとかの発想なわけです。人間は視覚によって一番多くの情報を得ているものなので仕方ないのですが、五感があるわけだから、他の感覚にも訴えかけるARが生まれるはずです。 しかし、その実現のためには新しい概念や技術がもちろん必要で、さらにその翻訳、“何がどうなるか”の分かりやすい出し方というのが重要です。僕らがやっている表現はまさにそうした技術の翻訳です。そうした意味で考えると、有力なのは“匂い”でしょうね」と川田さん。 匂いを判別することができれば、何ができるのだろう? 考えてみれば視覚ARのインターフェイスである携帯電話やスマートフォンは、もういくら解像度を上げても新しい世界は見えてこないかもしれない… 「今は研究者しか使っていませんが、すでに小型の匂いセンサーはあって、40万種類の匂いを判別できます。判別できるということは匂いが格納できるわけです。さらに匂いからその味をある程度予測できるんです。予測できるということはそのレシピが逆算できる。データベースに匂い情報を格納することも、引っ張り出すこともできる。ということは、ミュージック・スキャンができるiPhoneアプリ『Shazam』の料理版のようなものができる可能性がありますね」 つまりは、匂いから得ている情報全てが拡張できるということだ。自分の作った料理の匂いデータをWeb上で翻訳し、レシピとして交換できるサービスも生まれるかもしれない。さらには香水業界などでもデータベース管理などで革命的な技術革新をもたらす可能性もあるというのだ。 「さらに匂いをスキャンする技術が一般化したら、どういう文化が生まれるかというと、例えば遠距離恋愛などで… 女「今日はもうお別れね」 男「また1週間後だな。なあ、ちょっと匂いスキャンさせてくれよ」 女「しようがないわね」 みたいなコミュニケーションはきっと生まれるんですよ。それでそのスキャンする場所っていうのが、けっこうあらぬ方向に行ったりするんですよ! この未来は必ず来ます。もう僕の頭の中ではカップルがじゃれ合ってますから(笑)」と川田さんは未来を描く。 まるで写真を撮るようなニュアンスで、匂いを通したコミュニケーションが生まれ、それが視覚情報と連動すれば、さらに面白くなるだろう。今、街の現像屋では視覚情報の写真だけが出力されているが、ここで匂いが出力できるようになるかもしれない。未だ見ぬ“匂い媒体”がこの鼻で味わえるのも、そう遠くない未来だ。

人を拡張できるのは、人だけである

川田さんは、とにかく人に会う。それは今、コラボレーションによる出逢いや、雑誌等の対談になってきたが、学生時代からすでに人に会うことが大好きだったという。 「学生の頃からいろんな人を取材していましたね。自分しか知らないことをとにかく追求しようと思っていました。例えば北島三郎さんの公演に通いつめて、レポートを書いたこともありましたね。1ヶ月通って、だんだん周囲のオバチャンたちと友達になっていくと、歌舞伎のような空気感があることに気づきました。“今日のあのアドリブよかったわねー”と、差異を楽しむ文化がそこにあったり、掛け声などで舞台を共に作ってゆく姿勢もあります。ARなんてそのとき知らなかったけど、自分で自分の次元を越えているひとが好きでした。北島三郎さんは、演歌歌手という自分の現実を拡張して、北島三郎というARを地で行っていると思いますね」 例えば、AR三兄弟とコラボをした小林幸子さんも常に演歌歌手としての表現を超える試みをしていながら、アウトサイダーにはならず、国民的な存在である。 川田さん曰く「自分が会いたい人に会えるように、それに見合う自分になっているよう、努力しているところもありますね」とのことだ。 最近では、フロッピー、ハイドロジェン・オン・デマンド(HOD)など数々の発明で有名なドクター中松氏にも会ったという。AR三兄弟も、いわばAR表現の発明家。カラオケやファックスの原理をも生み出したという発明家と出会って、何を感じたのだろう? 「あの人は本物でしたね。まずエジソンを“所詮、街の発明家”と言っていましたから(笑)。彼が言うには、日本語では“発明家”だけど、海外では発明家の概念に種類があって、それは“インベンター”と“イベントール”であると。自分でゼロから研究開発からはじめて、ロジックを発見し、発明する人が正真正銘の発明家“イベントール”であるという。これに対して、エジソンはゼロから原理を作っていない。電球にしても、技術要素を組み合わせてやっているもの。こういうパターンは、街の発明家“インベンター”であると。つまりはちょっと革新的な電気屋サン止まりであると。これは面白い考え方でした。やはり言うことの切れ味が違うんですよ。本物は」と川田さん。 日々、“だれも知らないこと”を追求したりして、独自の新しい表現を作り出すAR三兄弟だが、やはり一番刺激を得るのは、すごいアイデアを実現し、自らの力で次元を超越している人との出逢いだという。現実を拡張するのは技術や思考だが、そうしたものを生み出す人そのものを拡張できるのは、やはり人でしかないのだろう。

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