“AR”という広大な余白の第一人者だからできること
「表現者としてARをやったら第一人者になれるんじゃないかなと思った」 セカイカメラがリリースされる直前に、川田さんはそう感じたという。 実はAR自体は3、40年は研究されている領域だという。なんと30年前にもヘッドマウントディスプレイとそれに関連するARの概念は存在していたのだ。しかし、その時は思想や理論上だけで終わってしまう世界観だった。つまり、どれだけ研究が深まっても、それが大学の研究室の外には出なかったのだ。そして世間もその概念を理解できないし、求めてもいない。いかに素晴らしい理論がそこにあっても、時代が求めなければそれはないがしろにされてしまうのだ。 しかし、今はiPhoneをはじめ、パソコンなどのハードが常にインターネットにつながりながら浸透してきた。そしてそれらには例外なくカメラがついている。
「時代の速度がようやくARの概念に合ってきたというイメージですね。題材としてARをとらえて、それをどう料理したら面白くなるかなということができる土壌がようやく整ったと。僕たちは、学者たちのナレッジとしてのARを、自分たちの方法で表現すること、しかもスベらないことが使命です。常に世間と接点を持って、“これ面白いんですよ”って笑いながら表現していると、研究者とは違う未来が見えてくるし、それはまた、研究者にとっても刺激になると思うんです」と川田さん。 事実、AR三兄弟の元を研究者が訪ねたり、大学や研究所にAR三兄弟が呼ばれることもあるという。学問としてのARの未来と、三兄弟による表現としてのARの未来が、刺激的な相乗効果を生み出しているのだ。 「メディアアートの領域ではすでにたくさんの超人がいるんですね。その土俵で勝負しても敵わない。だから自分たちだけの土俵を探そうと考えた、それがARだったんですよ」と川田さん。自分たちが大暴れ出来る場所、それこそが彼らにとってARの現実だったのだ。
